もち米寿司
[新潟県佐渡市]
2015年10月8日 新潟県佐渡市
見たことも食べたこともない郷土寿司が日本各地にはまだまだたくさんあります。
「郷土寿司プロジェクト」の取材では毎回、そうしたおすしたちと出合い、
かなりの衝撃と感動をもらっていますが、今回の佐渡も面白そうです。
というのも、もち米を酢飯にした郷土寿司があるそうなんです。
酸っぱいもち米?モチモチしたお寿司?
いったいどんな食感で、どんな味のおすしなのだろう?
そんなわけで佐渡島で「もち米寿司」を教わってきました。
秋の佐渡は、収穫間近の美しき稲穂の景色に入り混じって
収穫後、ひと段落している田んぼの景色もあったりと、
見ているだけでお米への感謝の気持ちで、自然と心が満たされていきます。
そして、なんと幸運なことに、トキに出合うこともできました!
収穫後の田んぼには、こぼれおちたお米や、小型生物たちがたくさんいるため
それを食べにトキが飛んでやってくるわけです。
もち米を使った郷土寿司をまずは食べてみないと話にならない。
ということで、まず向かったのが「佐渡特選市場」。
島の特産品や名産品を扱っているお店です。
僕らのためにご用意くださっているということで、伺ってみるとありました。
テーブルの上に、うわさのおすし!
桃の花とバラを模した、可愛らしい飾り巻き寿司です。
そして、佐渡の郷土料理までもずらり。
心温まるおもてなしをありがとうございます。
さっそく食してみると、ねっとりと、そしてモチモチとしているけど、しっかりと酢飯です。
おすしとしては、これはちょっと驚きの食感です。
が、想像以上に酢ともち米が合っています。
そして美味い!もち米だけにひとつ頬張っただけでも、ずっしりとしていてボリューミーでもあります。
今回いただいた巻きずしは、もち米100%でしたが、
本来はもち米とうるち米を5:5か3:7で混ぜるようです。
もち米の方が価格が高いため、時と場合によって使い分けてらっしゃる感じでした。
佐渡の方たちにすしについて話を聞くと、
「巻きずしといえば、もち米を入れるのが当たり前。」だそうですが、
それは昭和中期を生きてきた方々の意見です。
特にお正月やお祭りのときなどにつくっているようで、
もち米で作った酢飯と伊達巻きで、華やかな色合の具材を巻き込む「巻きずし」は、
「伊達巻き寿司」と呼んだりもしますが、特に決まった名前がないとのこと。
『何かよい名前はないかねぇ。』とおっしゃっていました。
今回、このおすしを教えてくださった先生は、和田藤江(わだふじえ)さんです。
この地域の健康推進委員を務められていて、
85歳とは思えない頭の回転の速さと会話力、そしてシャンとした綺麗な姿勢。
誰が見ても、健康推進委員に相応しい、存在自体が説得力のようなお方です。
和田さんがまず作り始めたのが、このすしの外側部分となる伊達巻きです。
卵を割りほぐした中に小麦粉、砂糖、ベーキングパウダー、お酒、
それに水を入れ混ぜ、それをホットプレートで焼いていきます。
まるでホットケーキを焼く手さばきです。
ふんわりと膨らんで焦げ目が付いたら、
お父さんから形見でもらったというお手製のヘラで裏返します。
「これじゃないと、うまく引っくり返せないの」と
茶目っ気たっぷりの笑顔で説明してくれます。
実はこのおすし、和田さんがお父様から習ったそうで、
習ったというよりは、実際は見よう見まねで覚えたそうですが、
昔は炭火と鉄板で焼いたので、ホットプレートは楽ちんだ!と笑っていました。
今回一緒にお手伝いくださった、和田さんの娘さん(名畑邦子さん)、
和田さんとは終始、親子漫才的トークで明るく楽しい現場でした。
もうひとり、お手伝いに来てくださった、ご友人(赤の三角巾)の土岐幸子さん。
最初に、伊達巻きを数枚作っておきます。
伊達巻きの間に挟んでいる紙、なんだろう?
久しぶりに見ました、わらばん紙!
そしてこちらが、もち米酢飯。
このおすし最大の特徴の一つです。
今回は、うるち米5:もち米5の割合とのこと。
十分にモチモチしています。
伊達巻きを焼いている間に、桜でんぶと酢飯を混ぜ合わせたものを少しだけ用意します。
次に、焼けた伊達巻きを巻きすの上にひろげ、もち米酢飯をのせます。
「酢飯はぺったんこにしないと、巻きにくいからね」と
和田さんからのポイントアドバイス。
酢飯を平らにして全体に敷きつめます。
中央に海苔を敷き、桜でんぶを混ぜてピンク色になった酢飯をのせ、
これを先に巻きます。
そしてなんですか! その蛍光緑色の食材は!?
さっきからずっと気になってはいたのですが、
その時がくるまで黙っておこうと思い我慢していましたが、
この形状からして、もしかしてこれって? ^^;
『カンピョウよ。』
ですよね^^;
カンピョウを食品添加物の着色料(緑)で染めている。。。
厳密には デキストリン88%、食用黄色4号 8.4%、食用青色1号 3.6%
から作られる、あれです。
それにしても鮮やかですね。
健康志向とか、無添加が風潮だった2010年代、
僕もどちらかというと、そっち派の人間ですので
思わず、「カンピョウを緑色にするのは、健康によくないのではないですか?」
と和田さんに問いかけてしまいました。
そしてすぐに僕はハッとしました。
85歳でこんなにピンピンされている和田さんに
30代の若造が何を言ってしまったのだろう。と
緑色のカンピョウの脇に煮ひじきを盛り付けながら和田さんが答えてくれました。
『だって、醤油で茶色く煮るよりも色が綺麗じゃない。』
誰よりも説得力のある一言に、現場にいたスタッフ一同、異論はありませんでした。
バカな僕はまた和田さんに問いました。
『確かに綺麗ですね!でも、せっかくの佐渡の郷土寿司なんですから健康的なレシピのほうが、、、』
僕の空気の読めていない発言に、現場の空気は静まり返りました。
和田さんは全く気にしていない様子でした。^^;
さすがにこの話題を続ける意味に気づいた僕は、話題を変え、
次の工程を教わる流れに戻しました。
横からみると、現状このような感じ。
・海苔で巻かれた桜でんぶ酢飯
・緑色のカンピョウ
・煮ひじき
さぁ、これをいよいよ巻きすで巻いていきます。
具がバラバラにくずれないように、両手で押さえ込みながら
慎重に巻いていきます。
伊達巻きでしっかり具材を巻き込めたことを確認したら、
一気にくるりと巻きます。
はい、こんな感じ!
これを半紙で包み、
新聞紙でロール形を固定して形状を整えます。
「こうしてあら熱を取るのよ。ラップだと湿気が取れないので、新聞紙がちょうどいい」。と和田さん。
本来はこのまま2時間ほど置いておくと、太巻きがぐっと引き締まり、
一体化するので、食べたときにバラバラとくずれないそうです。
ここまでが、一連の調理工程です。
この日準備した材料分を全部巻いたら、最後に切り分ける流れになります。
次は僕の番です。
和田さんに教わった工程を思い出しながら作っていきます。
85歳の大先輩からマンツーマンでおすしを教われるなんて、
本当に貴重な経験ですし、しっかりと身につけてかえりたいという気持ちです。
「あなた、丁寧で上手じゃない。」
何度も褒めてくださる和田さん。
一応すし職人なんで!なんて野暮なことはいわずに、
心から嬉しく、そのお言葉を噛み締めました。
しかし、調子にのって何かちょっとでも違っていると、
すぐに注意して教えてくださる和田さん。
自分がすし修行中に先輩方から厳しくご指導いただいた時とは全く異なる
このふわりと優しい環境に楽しく甘えている自分を感じ、
すぐに心改めました。
まったく休まず、付きっきりで見守ってくださる和田さん。
ありがとうございます。僕はもう、真剣です。
しかしここで緑カンピョウきたー!
つい、顔がほころんでしまいました。
長めのカンピョウを折りたたむようにしてのせていきます。
海苔にお米がつぶつぶと付いて、下手に巻いたように見えますが、
今回の工程上、絶対こうなりますよね^^;
ま、これを酢飯で巻くので結果的には綺麗に見えるわけです。
それでは巻いていきます。
しっかりと具材をおさえながら
一気にキュッ!
サッと半紙と新聞紙を広げてくださる和田さん。
半紙で巻いて
新聞紙で包み込む!
穏やかな笑顔で見守ってくださっている和田さんの娘、邦子さん。
そしてまた次の一本へ!
和田さんが調理を進めています。
黒いひじきもまた、切ったあとの断面で良い存在感、表情を見せてくれる設計です。
そういえば、煮ひじきを巻きずしに入れる郷土寿司は
何気に他の地域に無いかもしれません。
僕にとって、この光景は非日常であり宝物です。
目にも焼き付けましたし、こうしてまた思い出しながら見れるという
写真の素晴らしさ。
カメラマンさんは遠藤宏さんです。
そしてまた次の一本へ、
このあとは二人で協力してどんどん巻いていきました。
そして、切り分けていきます。
切る前に和田さんは、甘酢(砂糖を溶かしたお酢)で包丁を濡らしていました。
もち米はお米より粘り気があるので、包丁にべっとりと付かないようにするためです。
やや分厚めに切っていくと、断面にはひじきの黒、桜でんぶのピンク、
かんぴょうの緑が表れ、伊達巻きの黄色と合わさって、なんともかわいげな色合い。
お寿司というより、ロールケーキのような印象です。
外側がふわふわで、中がモチモチ。
切るのはとても難しいはずなのですが、
和田さん、包丁さばきもバッチリです!
お重に盛り付けていきます。
断面を見ると、緑カンピョウの色彩アクセントが効いてますね!
どんな角度から見ても、なんともかわいらしいおすしです。
おいしそうでしょー?
これが完成形です。
食べてみると、ロールケーキよりはパンケーキのような食感、そしてすぐにモチモチの酢飯が登場。
味は和スイーツでした。^^;
「昔は甘いお菓子など、なかなか手に入らなかったので、こうしたおすしがその代わりだったのよ」。
和田さんはニコニコとした笑顔で教えてくれました。
今では、お祭り行事やお祝い、遠足などで食べられることがあるようです。
ちなみに佐渡に住んでいて、このもち米を使った郷土寿司を知る方々は
このすしを「おすし」と呼んでいて、固有の名前がありませんでした。
そこで、みなさんと相談して、「郷土寿司プロジェクト」では「もち米寿司」と呼ぶことにしました。
最後はみんなで記念撮影。
和田さん、そして一緒に手伝っていただいた和田さんの娘さんである石畑邦子さ(写真左端)、それにご友人の土岐幸子さん(写真右端)、
この度は大変お世話になりました、どうもありがとうございました!
しっかりとこの郷土寿司を記録し、いつでも再現できるように、
そして定期的に発信し続けていきますね!
ここに、和田藤江さんに教えていただいた
【もち米寿司(伊達巻き寿司・おすし)】のレシピを記しておきます。
〈材料〉4人分
【寿司皮(玉子生地のこと)】
卵 L10個
小麦粉(薄力粉) 1kg
上白糖 750g
酒 1カップ強
水 3カップ弱(※酒と水は合わせて4カップ)
ベーキングパウダー 50g
(※この分量で寿司皮6,7枚焼ける)
(※卵の色をよくするために1,2時間前に水の中に乾燥したクチナシの実を2,3個入れておいてもOK)
【すし飯】
米 1升(うるち米:もち米 = 7:3 ,冬は6:4)
※5:5にすると4,5日長持ちする
水 米と同量または1割増し
【合わせ酢】
5倍酢 40cc
上白糖 400g
塩 ひとつまみ
【すしの具】
ひじき
かんぴょう(緑)
〈作り方〉
・卵を割りほぐした中に小麦粉、砂糖、ベーキングパウダー、酒、水を入れて混ぜる
・ホットプレートの温度は160度にする
・焼き麺にサラダ油を敷き、混ぜておいた卵液を玉じゃくで流し入れる
・上面にぶつぶつができたらヘラで返して焼く
・すし飯は、合わせ酢を鍋でひち煮立ちさせて冷ましておく
・炊き上がったご飯に合わせ酢をよく混ぜて冷ます。
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後日、酢飯屋でもち米寿司を再現してみました。
このモチモチ酢飯に合う魚はなんだろう。
意外でもあり、ド直球でもある「鉄火巻き」が合いました。
クロマグロの赤身を中巻きサイズにすることで、さらにもっちり食感を出してみました。
細巻きのもち米寿司に合わせたのは、明太子。
明太子には、その他の食材も加えてアレンジしたくなりますが、ここは敢えてシンプルに。
もちもちとプチプチが良い相性のおすしです。
今後も様々なもち米寿司を作っていきたいと思います。