太刀魚のかいさま寿司
[高知県]
太刀魚(タチウオ)のかいさま寿司は、高知県の郷土寿司です。
『かいさまにする』とは、土佐弁で表裏を逆(さかさま)にすること。
タチウオの銀色の皮を内側にして隠したようなすしが『かいさまずし』です。
【TACHIUO NO KAISAMA SUSHI】
In Tosa dialect ,『Kaisama ni Suru』 means to turn something upside down.
For Kaisama Sushi , the fish is placed skin first on the rice rather than the other way around ,as usual.
ちなみにタチウオは、こんな魚です。
https://www.sumeshiya.com/blog/2018/07/post-3698.html
赤い部分はヒレの付け根、タチウオのエンガワ部分です。
【太刀魚のかいさま寿司の作り方】
〈材料〉
太刀魚(たちうお)
振り塩用の塩(太刀魚の重量に対して5%ほど)
柚子酢(太刀魚が浸る程度)
(すし飯)↓
生米 300g(2合)
柚子酢40ml
塩6g
砂糖30g
おろし生姜10g
煎りすりゴマ(白)10g
タチウオを巻きすの長さほどに切り、両面に振り塩をする。
塩の時間は、魚の状態の見極めと、完成の着地点の設定によって臨機応変に。
タチウオの脂が強ければ、塩も強めに、2時間以上
逆に脂がほどほどならば、30分ほどの塩で。
あとは、すぐに食べるのならば、塩は2,30分ほどで十分だし、2,3日保たせるならば
半日ほどしっかり塩を利かせることもあります。
塩を水で洗い流し、
水分を拭き取ります。
柚子酢に30分〜1時間ほど浸けます。
柚子果汁100%の酸っぱい液体のことを、高知では柚子酢(ゆのす)と呼びます。
たっぷりのゆず果汁を使って酢締めにするなんて、高知以外の人からしてみたら
とっても贅沢な調理法です。
ゆずの酸味で締められたタチウオ。
「ゆず締め」とでも名付けたいくらい、数あるすしの中でも非日常な調理法です。
鮮度の良いタチウオだったので、銀箔もまだしっかりと付いていますが、
塩と酸で締められているので、ちょっと触れば、銀箔がすぐにとれてしまうような状態になっています。
すし酢に使用するのも、酢ではなく、柚子酢(ゆのす)。
高知では当たり前のことです。
(柚子酢の酸味がまろやかな時には、酢を加えることもあります。)
甘いものが贅沢だった時代の郷土寿司らしい、
しっかりとした甘みがあり、そこに柚子の香りと生姜と胡麻が合わさり
すし飯だけで食べてもおいしいです。
すべての具材の準備が整いましたので、かいさま寿司を作っていきます。
銀側が見えるように巻きすに置き、
そこにすし飯をのせていきます。
巻きすを巻く前に、ある程度ギュッとすし飯を整えておきます。
そして、すし飯に覆い被せていくようにして巻きすで包み込み棒状にしたところで
両手でギュッと締め付けます。
開いてみるとこんな感じ。
「押しずし」のように、ギューっと押し固めて、すし飯に隙間がないくらい固くすることはせず、
手の力で強めにギュッとするくらいでOKです。
ころりと返してみると、バッチリ「棒ずし」になっています。
脂ののったタチウオの旨味と、塩と柚子酢が奏でるハーモニーが楽しみすぎる。
あとは、切り分けて食べるだけ。
「たちうおのかいさまずし」の完成です!
ごはんが多めなのも、郷土寿司の特徴です。
ごはんそのものがご馳走だった時代、お祝いの席では
甘く味付けされた、たっぷりのごはんを使ったおすしは、圧倒的なご馳走でした。
口に含んだ時に潤沢に香る柚子が、郷土寿司大国高知を表現しています。
しかし、輝く銀が美しいタチウオの皮目をどうしてわざわざ逆さまにしてしまったのでしょうか?
そこには、時代背景や価値観の違いがありました。
キラキラと光る銀箔は、見栄えが悪いということで「かいさま(逆さま)」にしたというのです。
ということで、「たちうおをかいさまにしないすし」を作ってみました。
どうでしょう?
ぜんぜんあり!という方もいらっしゃれば
やはり、銀が銀過ぎて気持ち悪いとおっしゃる方もいます。^^;
見た目での好みの違いはいつの時代にも、どんな人にでもあるものだと理解するしかないのです。
ということで、高知産のすじ青のりで銀を隠して美味しくしてみました。
すじ青のりの香りと柚子の香りが混じり合って食欲がそそられます。
「太刀魚のかいさま寿司改(たちうおのかいさまずしかい)」
こうして、伝統を引き継ぎながら、新しいすしに挑戦していくのが大好きなんです。
「すじ青のりと太刀魚の柚子ずし」
「ゆず締めタチウオの青ずし」
新たなすしを作って、名付けて、それが何年も何年も伝え継がれたときに、
そのすしは、文化の一つになるのです。
こちらは、東京すし和食調理専門学校さんにて
「郷土寿司学」の授業をさせていただいた際に作った「たちうおのかいさまずし」です。
食べた瞬間の生徒さんたちの笑顔がとっても印象的でした。
ゆず果汁のすし飯おいしいーって!
高知の郷土寿司の一つ、「きびなごのおからずし」とともに。
そして、一人の生徒さんが逆さまにする理由がどうしても疑問で挑戦してくれた、
逆さまにしないバージョン。
そういうチャレンジ、大賛成です。
銀が見栄えが悪いのではなく、
銀が剥がれてこうなってしまうと見栄えが悪くなることが確認できました。
丁寧に丁寧に作らないと、銀箔が簡単に剥がれてこんなふうになってしまいます。
どっちが綺麗?となり、
当時は「かいさま」が選ばれて、そのまま現代まで受け継がれていったのだろうということが
作ってみるとわかってきます。