郷土寿司プロジェクト

ハタハタ寿司

[秋田県]

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冬の日本海。
11月末から12月にかけ、冬型の気圧配置によって時化が続くと
海水は大きく撹拌され、水温が低下します。
やがてとどろく雷を合図とするかのように、沖合い深いところから
1.5mほどの浅瀬まで産卵に押し寄せるのがハタハタです。
 
 
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魚偏に神と書いて鰰(ハタハタ)。
年の瀬、田畑や木々が雪に埋もれて、食糧が不足するこの時期に
人間から獲りに行かずとも、ハタハタの方から接岸してくださる。
これは神様からの贈り物だということからこの字が作られたと言われています。
腹にたっぷりとブリコ(卵)を持って接岸するこの時期のハタハタは、
地元秋田では「季節ハタハタ」と呼ばれています。
 
ハタハタの水揚げ地として知られる秋田県八峰町八森を訪ねたのは
2014年12月3日。
この辺りではハタハタ漁の稼ぎによって冬を越す漁師も少なくないそうです。
 
冷蔵冷凍技術発達以前、秋田の人々は
大量に水揚げされたハタハタを冬の貴重な食糧とすべく、
発酵の力を借りて多様な保存食に変えてきました。
八森と並ぶ水揚げ地、男鹿で出会った漁師の奥さんは秋田弁でこう話してくれました。
「頭とわたを落とした胴は、塩漬けにして保存して焼き魚、煮魚などにした。
頭も捨てずに塩漬けにして、しょっつる(魚醤)をつくった。
においがきついから、今はしょっつるをつくる人はほとんどいないけれども」。
 
ハタハタ寿司もまた、歴とした保存食です。
塩漬けにしたハタハタを
飯、野菜、糀などとともに漬け込んで熟成させる寿司で、
石川県、富山県でつくられるかぶら寿司などと同じ「飯ずし(いずし)」の一種にあたります。
独特の優しくて深い酸味は、酢によってつけられるのではなく乳酸発酵によって醸し出されたものです。
  
ハタハタ寿司は、
常陸国の佐竹氏が出羽国秋田へ移封される1602年より前から
つくられていたことがわかっているそうです。
秋田のお正月の食卓には欠かせない一品で、
そこに間に合わせるべく、初冬に仕込みが行われます。
 
 
『しょっつる』や『干物』などの水産加工品を製造する
八森漁業協同組合婦人部のグループ「ひより会」を訪問しました。

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代表の岡本リセ子さん、藤田はるみさんに
ハタハタ寿司の仕込みを教えていただきました。
接岸する季節ハタハタ漁が始まる前のこの時期、
ハタハタ寿司の仕込みには、
沖合の底引き網漁で獲られたハタハタが使われます。


【ひより会のハタハタ寿司】
<材料>
ハタハタ
ご飯



みりん
砂糖
しょうが
にんじん


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ハタハタは頭を落として内臓を除きます。
10%の塩水に漬けて重しをし、一晩おいてしっかり血抜きをします。


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漬け汁を捨て、5、6回水を替えながら水洗いしてから、数時間水にさらします。
 
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ザルに上げて、十分に水気をきり、酢に一晩つけます。
ひより会で使っているのは「五倍酢」の名で売られている濃縮タイプの酢でした。

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酒、みりん、砂糖を溶かし、温かいご飯に混ぜ込み、冷まします。
 
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漬け容器の底に笹の葉を敷き込み、さきほどのご飯を薄く広げて入れます。
 
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ご飯の上にハタハタをすき間なく並べ入れます。
 
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ハタハタの上から手のひらでギュッと押さえてから、
ご飯を重ねて、細切りにしたにんじん、しょうがを散らします。
 
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僕もハタハタ寿司作りをやらせていただきました。

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こんな感じに再びハタハタをすき間なく並べて押さえ、
同様にしてご飯、野菜を重ねる。これを繰り返します。
 

 


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⑩最上段にはご飯を厚めに重ね、笹の葉で覆う。

⑪1日目は重しをせずに冷暗所におく。
2日目は軽めの重しをし、3日目からはしっかり重しをする。
(ハタハタ20kgの漬け込みに対して重し50kgが目安)

⑫途中、上がってきた漬け汁を適宜捨てながら、
身と骨の柔らかい沖合のハタハタであれば15〜16日間、
季節ハタハタであれば3週間ほど漬け込む。

1年前のハタハタ寿司を味見させていただきました。
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お、おいしいです。

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ハタハタ寿司は、このお米を取り除いて食べる贅沢なお寿司です。

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ハタハタ寿司をはじめ、
北海道から北陸にかけての日本海側各地でつくり継がれてきた「いずし」の特徴は、
野菜をともに漬け込む点のほか、
発酵を促進する材料として麹が使われる点にあるとされています。

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しかし、ひより会のハタハタ寿司には麹が加えられていません。
麹の代わりにご飯に混ぜ込む酒と一晩ハタハタを酢に漬けることで、
発酵を促進する役割を果たしています。
秋田県内でも地域により、また家庭により、
材料の配合も漬け込み方もさまざまなようです。
県南部には、より甘みが強く、
熟成に日数をかけるハタハタ寿司も見られます。
 
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漬け上がった寿司は、熟成が進んで骨もすっかり柔らかくなって、
骨まで丸ごと食べられる非常に栄養価の高い寿司です。
地元の人たちは、まずは正月の定番の一品として味わうと、
日々のおかずとして、酒の肴として、少しずつ食べ進めます。
しょうゆを少しつけて食べるとうまいとの声もあります。
熟成がさらに進み、酸味が強くなってきたころには、
焼いて食べるとまた新たな美味しさに出会えます。 

 
 
ハタハタ(鰰、鱩、雷魚、燭魚)
別名カミナリウオ、シロハタ
英名:Sailfin sandfish
スズキ目ワニギス亜目ハタハタ科に属
日本では主に日本海側で食用にされ、秋田県の県魚。
しょっつると呼ぶ魚醤にも加工される。
魚卵はブリコと呼ばれる。

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激しい雷(ハタタ神)が鳴り雪が降ると
水温が下がり、産卵のために接岸する。
卵は冬を越して、春から稚魚が生まれる。
冬を越すために、卵の皮が厚め。

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【はたはた・ハタハタ・鰰・鱩】の写真集はこちらからどうぞ。
http://www.sumeshiya.com/blog/2014/12/post-27.html

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在庫がある場合のみですが
ひより会さんのハタハタ寿司が神楽市場(かぐらいちば)から購入可能です。

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年々貴重なお寿司となっているハタハタ寿司の中でも
今回ご紹介する『ひより会』さんのハタハタ寿司は本物中の本物の地元の味です。
1袋200g(大小10尾前後)が5パック
オスメス混合で、合計1kgものハタハタ寿司が1箱になって届きます。

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冷凍可能なお寿司ですので、個包装がとても便利です。
食べたい時に1袋、水に漬けるだけで数分で解凍できます。
手で触ってハタハタが柔らかく、ぐにゅるりと曲がるくらいで解凍終了です。

ごはんを取り除いて食べても、一緒に食べてもよし。
まるごとそのまま食べても、一口大に切って食べてもよし。
もし酸味が足りなければ、冷蔵庫で数週間寝かせておくと
ゆっくり発酵が進みますので、お好みの酸味でお召し上がりください。

※未開封冷凍で賞味期限1年間、開封後は冷蔵保存で2ヶ月以内にお召し上がりいただくことを推奨いたします。