日野菜ちらし寿司(ひのなちらしずし)
[滋賀県日野町]
今回の滋賀では、ビワマス釣りがメインだったこともあり、
日野菜のシーズンオフで、畑だけ見せていただきました。
日野菜(ひのな)は、
滋賀県蒲生郡日野町鎌掛が発祥のカブラの一種で、滋賀の伝統野菜です。
室町時代の日野の領主、蒲生貞秀(がもうさだひで)公が
日野の鎌掛(かいがけ)という地域の観音像に参詣した際、
日野菜を発見し、その菜を漬物にしてみると
色、味ともに風雅なものであったため
京の公家に贈り、時の天皇に献上され、
天皇もこの漬物の美味しさに喜び
その公家を通じ和歌一首が蒲生貞秀公のもとに贈られました。
公家が詠んだ和歌がこちらです。
近江なる
ひものの里のさくら漬
これぞ小春の
しるしなるらん
これ以来この菜を『日野菜』とよび、
漬物を『さくら漬け』の名で親しまれるようになったといわれている
由緒正しい、歴史ゆかしい伝統野菜です。
江戸時代中期以降は、さまざまな書物に『日野菜』の記載が見られます。
日野町大谷出身の画家・月岡雪鼎(つきおかせってい)も
当時の日野菜の姿を描き、
『蒲生氏の国替えに伴い、奥州会津や伊予松山でも栽培されるが、他の土地だと
普通の蕪になってしまうようだ』と記しています。
ちなみに、江戸時代の日野菜は太くずんぐりした形だったようです。
【日野商人種屋嘉兵衛の印】
村井北今町・小亀惣兵衛の伊勢亀山出店の店印。
『ひのあかな種』として日野菜の種を商っていたことがわかります。
【品種改良して、原種を保存】
明治以降、日野菜は品種改良が行われ、細く、まっすぐな形になりました。
また日野菜は他のアブラナ科の植物と交雑しやすいため、
原種の保存も図られていました。
大正時代には『原種圃』と呼ばれる、種子を採るための畑が設置されており、
厳密な選抜審査が行われていました。
現在、全国に広まった日野菜ですが、
現在も日野町では、深山口日野菜原種組合によって、原種が守られています。
F1に改良された種とは異なり、
一つ一つ成長速度が違うため、栽培にはかなり手間がかかりますが、
500年以上にわたる日野菜の歴史を地元の人々は守り続けています。
この土地には、日野菜が美味しく育つ秘密があります。
水はけがよいのに、保水力があり、肥沃な土地という全ての条件を満たしているからです。
鎌掛は、かつて古代湖(現在の琵琶湖)がちょうど三重県の位置から移動してきた際の
通り道でした。
そのおかげで『古琵琶湖層』と言われる日野菜に適した砂質土壌が完成したのです。
砂地なので、日野菜は細く長く育ちます。
また、日野菜は非常にデリケートな野菜で、
同じ場所で日野菜だけを育て続けると収量が減少したり、
病気になる『いや地現象』(連作障害)を引き起こすため、
連作はせず、他の作物を栽培したり、土づくりに取り組みます。
〈種まき〉
気温が20〜25℃の秋が栽培適期です。
〈水やり〉
土が乾いたら水をやります。
〈間引き〉
収穫までに3回ほど間引きをします。
〈害虫駆除〉
害虫を防ぐために適切な薬剤散布をします。
〈収穫〉
種を蒔いてから50〜55日経ち、
根の直径が2.5cm〜3cmになったものから収穫します。
鎌掛の長野地区に初霜が降り、
谷間が朝霧に包まれる10月頃から12月まで、日野菜の収穫最盛期をむかえます。
みずみずしい葉っぱ、抽根部の紅、キメの細かい白い根がスーと伸びます。
収穫を終えると、作農家さんはすぐに次年度の作付けに向けて堆肥などを施し
肥沃な土壌づくりの作業をおこないます。
『いや地現象』回避のためもありますが、
土壌がやせるとデリケートな日野菜はすぐにダメになり育ちません。
日野菜は、育ちやすい風土と歴史、自然の力と人の手厚い作業が加わり生まれた
伝統野菜です。
畑を見終えると、なんと日野菜寿司をご用意してくださっていました。
日野菜の根と葉を刻んでたっぷりと混ぜ込んであるチラシ寿司。
【日野菜ちらし寿司(ひのなちらしずし)】のレシピ
〈材料〉5人分
米 600g
A 酢 60ml
砂糖 70g
塩 10g
かんぴょう 15g
B 砂糖 30g
薄口醤油 30ml
にんじん 50g
C 砂糖 30g
薄口醤油 30ml
干ししいたけ 3つ
D 砂糖 30g
薄口醤油 30ml
ちりめんじゃこ 30g
日野菜ピクルス 80g
三度豆 30g
卵 2個
〈作り方〉
1 米は寿司用に炊き上げ、Aの合わせ酢を振りかけて冷ましておく。
2 かんぴょうは水に戻して、細かく刻み柔らかく炊いてBで薄味をつける。
3 にんじんは、細かい短冊切りにしてCで薄味をつけて煮ておく。
4 干ししいたけは、水に戻して細く切りDで甘辛く煮ておく。
5 日野菜ピクルスは、細かく刻んでおく。
6 三度豆は、塩茹でし細かく刻んでおく。
7 卵は塩少々を加え、薄焼にして錦糸卵をつくる。
8 寿司飯が冷めたら、かんぴょう、にんじん、干ししいたけ、ちりめんじゃこを混ぜ合わせる。
9 盛り付けた寿司飯の上から、日野菜ピクルス、錦糸卵、三度豆を彩りよく飾る。
塩気と酸味にほんのわずかな辛味。
お寿司には最高に合います。
酢飯屋では、こんな風に
日野菜(ひのな)の漬物寿司 を作ってみました。
漬物寿司は
味の濃いお寿司、脂ののった魚のお寿司、様々なお寿司が出てくる寿司コースの途中でお出しすることで
お食事に緩急がつきます。
器:安達健さん
【日野菜さくら漬けの漬け方】
〈材料〉
日野菜 1kg
あく抜き用塩 50g
本漬け用塩 30g
酢 50ml
1 日野菜全体を丁寧に水洗いし、水気が落ちるまで置いておきます。
2 根と葉を切り離します。根は3cm程度の短冊に切ります。葉は3分の2程度使用し
みじん切りにします。(葉の先はえぐみが強いので3分の1切ります。)
根と葉は別々の容器に入れておきます。
3 根はあく抜き用塩を振って混ぜておきます。
葉もあく抜き用塩を振りよくもんでおきます。
別々に熱湯をかけたあと冷水でよくもみ洗い、ザルにあげます。
4 ボールにそれぞれ葉と根を移し、塩30gを混ぜ、本漬けをしていきます。
根のみ、酢50mlを加えて混ぜます。
(ボールに分けることで色移りがせず、綺麗に漬かります。)
5 卓上漬物器の下に根を置き、その上に葉を置いて蓋のネジをキツくしめて押さえ圧搾します。
6 本漬け後2日ほどで漬かり上がれば容器から取り出し、
汁を絞り、酢を少し加えると、美しい桜色になり完成です。