たちうお・タチウオ・太刀魚・Trichiurus lepturus
[すし・sushi岡田イズム料理海の生き物釣り・Fishing食遊び]
2022年8月6日 福岡県志賀島沖にて
スズキ目
サバ亜目
タチウオ科
タチウオ属
タチウオ
タチウオテンヤでもう一匹。
こちらの仕掛けが通常の「タチウオテンヤ」というものなのですが、
オモリと掛け針を一体化した仕掛けで、これを使ったタチウオ釣りのこともそう呼びます。
テンヤには針金が付属していて、エサ(写真はキビナゴ)を巻き付けて、全体をルアー感覚で釣り人が操作して使うものなのですが、
前回の釣行で、これで釣れることは確認済みですので、
今回はなんと、
生エサではなく、カタクチワーム(イワシカラー)をテンヤに巻いてみたら
それでも釣れることがわかりました。
釣れるパターンやその日のジグ(ルアー)の傾向が掴めたら、
それでまた釣れば釣れやすいのですが、
最近の傾向として、一度釣れたジグ(ルアー)は、その日はもう使わない。
というふうにしているので
大昔に買った、メーカーさえも覚えていないイワシジグでヒラヒラさせてみたら
指4本分、タチウオ用語で言うところの、F4(Finger four)サイズが釣れました。
このタチウオ、尻尾が噛み切られていました。
こちらは、東京湾のタチウオ釣りにて。
磨き上げられた日本刀のように本当に綺麗な容姿のタチウオ。
この鏡面の美しさを見るためには、釣りたてしかないのです。
こちらは、タチウオ釣りの動画です。
体表はグアニンという銀白で覆われていて、ウロコはありません。
グアニン層は人が指で触れただけですぐ落ちるほど落ちやすいですが、
海の中で生きているうちは、常に新しい層が生成し体を保護しています。
以前はこの銀粉を採取して、
セルロイド製の文房具(筆箱や下敷きなど)や、人工真珠、マニキュアのラメなどに用いられていました。
人工真珠の歴史は17世紀半ばのフランスで、中空のガラス玉の内側に魚のウロコから造られた真珠箔塗料(パール・エッセンス)を塗り、さらにロウを詰めたのが始まりとされています。
日本では、明治末期に貿易商であった大井徳次郎(おおいとくじろう)がフランス製の人工真珠の研究を平賀義美(ひらがよしみ)に依頼したのが始まりだそうです。
初めのうちは、タチウオなどから採られるグアニンをセルロイドに練り込み、
それをガラス玉の外側に塗り重ねることで人工真珠が作られていました。
このグアニンは、タチウオだけでなくサンマなど他の魚も持っているのですが、
他の魚はウロコの下にあるのに対し、
タチウオは皮膚の表面にあるため、他の魚よりも金属的な青みを帯びた銀白色に見えます。
この日は、東京湾水深60メートルほどのところでヒット。
タチウオは、主に水深200メートル前後に生息する大陸棚を好む深海魚です。
夜行性で、エサとなる小魚などを求めて深場から浅場へと移動します。
夜の間にたっぷりエサを食べたタチウオは、夜が明けると沖の深みへと移動し、
底近くで群れになって立ち泳ぎをして過ごしています。
成魚と幼魚では逆の行動パターンを持ちます。
成魚は夜間は深所にいて日中は上方に移動し、特に朝夕は水面近くまで群れて採餌しますが、
幼魚は日中は泥底の上の100メートルほどの場所で群れていて、夜になると上方へ移動します。
稚魚や幼魚のうちは、甲殻類の浮遊幼生や小さな魚などを食べて過ごします。
(※写真は稚魚ではございません)
成魚は小魚だけでなく、イカや甲殻類を食べることもあります。
さすがに、貝類などの硬い殻を持つものは食べないことから、
「タチウオは歯を大事にする魚」と言う習わしもあったようです。
この鋭い歯は、人の皮膚も容易に切り裂くため、
生きているタチウオを扱うときには注意が必要です。
泳ぐ力は弱い魚種なので、エサの魚を追いかけ回すというよりは、
このようにしてエサが近付いてくるのを待っています。
潮流が穏やかな場所に限りますが、
頭を上に向けて立ち泳ぎをする魚だから、「立ち魚(たちうお)」という呼び名が生まれたという説もあります。
場所によっては立ち泳ぎで群れになり敵から逃げる際に
体に当たる光を反射させて、目晦ましにするためという説があります。
日本のほぼ全域に生息するタチウオは、どう猛なフィシュイーターとして有名ですが
体表の色素が落ちてしまったり、傷つくとそこから病気を発症してすぐに弱ってしまったり、
死んでしまいやすい繊細な魚でもあります。
他の魚類のように粘液で覆われてもおらず、ウロコもないので
人間が素手で触るだけでも火傷したように痕が残ります。
頬の部分を素手で持ったら、指紋が付いてしまいました。
釣ってすぐの暴れる太刀魚をフィッシュグリップで掴んだだけで
挟んだところがこんなに傷だらけに・・・・。。
水族館では、タチウオは飼育しにくい魚のひとつと言われています。
すでに何匹か飼育している水槽に、新たな群れを入れると、
先に飼育していたもののほとんどがストレスで死んでしまうほど、神経質な魚のようです。
タチウオの産卵期は海域により異なりますが、だいたい4月から11月頃です。
主産卵期は、春と秋の2回。
沿岸の水深50〜70mほどの海中で産卵します。
産卵時の卵の大きさは直径1.5mmから1.9mmほどの丸型で
年齢によって変わりますが、約1〜9万粒が産卵されます。
産卵期間中に1匹のメスが複数回産卵することもあります。
産み落とされた卵はすぐバラバラに散らばって海中を漂い、
水温16℃で4日ほど経つと孵化(ふか)します。
孵化してすぐの仔魚(しぎょ)は、全長約6mmほどです。
生後1年で頭胴長(とうどうちょう) ※全長から尾の長さを引いたもの
20cmほどにまで成長します。
タチウオの成長を示す数字として、
「肛門前長(こうもんぜんちょう)」という言葉がよく使われます。
これは、口の先端から肛門の中央までの直線距離を測ったものです。
肛門前長の数値は、
1年で20~24cm
2年で28~30cm
3年で31~36cm
と言われています。
この穴がタチウオの肛門でっす。
全身は肛門前長の約3倍になりますので、
1年で60cm前後、
2年で90cmほど、
3年で1m近くになります。
釣り人がドラゴンと呼んでいる120cmオーバーのタチウオは、
成長するのに5年ほどかかっている計算になります。
なぜ他の魚のように、頭から尾ビレの先端までを測らないのかというと
タチウオの尻尾が細くて切れやすいことと
争いで尻尾を噛まれて切れてしまうことがよくあるからです。
この写真の一番下の尻尾は噛み切られた痕があります。
タチウオの寿命は5~8年ぐらいで、
2歳前後で成熟し、メスの方がオスよりもかなり大型になります。
群れで行動する回遊魚で、
南の海で冬を越したタチウオは、春から夏にかけて日本列島の沿岸を北上します。
子供がこんな持ち方をしてもまっすぐ死後硬直している鮮度抜群のタチウオ。
まさに刀です。
観察を続けていきます。
次男は大好きなオレンジジュースに夢中です。
長崎県五島市より
五島〆(ごとうじめ)のタチウオが届きました。
五島〆とは、
長崎大学などの協力を得て2年かけて確立した魚を釣り上げて最初に行う(初期処理)独自の技法です。
瞬時に魚の神経と血を抜き取ることで魚肉が傷まず、おいしさと鮮度を保持することができます。
漁協など漁業団体でつくる『五島〆の匠(たくみ)認定委員会』が認めた漁師さんだけに交付する
「五島〆の匠認定証」を持っている方のみ許されているものです。
タグの裏面には、QRコードとともにこう記されています。
卓越した知識と技能をもった漁業者を「五島〆の匠」として認定し、
その匠が取り扱う鮮魚の証明です。
長さ、幅ともに大迫力のサイズで、子供たちも大興奮。
小さな頃、小さなタチウオで盛り上がったのが懐かしいです。
俗にドラゴンサイズと呼ばれるこのサイズのタチウオは、
もう少し大きくなったら一緒に釣りに行こう。
タチウオの顔
タチウオの頭は尖った形をしています。
タチウオのアゴにあるなぞの<<<<<<<<模様。
下アゴが突出しています。
タチウオのアゴには、綺麗な青い一点があります。
アゴの先端は黒です。
タチウオの目
タチウオの鼻の穴(鼻腔(びくう))
タチウオの口
下アゴの先には、2本の鋭い歯(犬歯)が生えていて、釣り針のような返しも付いています。
その他にも大小色々な形の歯が生えています。
上アゴには長く尖った歯が何本も生えています。
あごの中には予備の歯があり、歯が欠けるとすぐに生え変わります。
殺傷能力が確実に高いのがわかりますね。
口を閉じてもハミ出してしまう歯が恐ろしいですが可愛いです。
タチウオの舌がQRコードすぎる。
体は全体的に左右に平。
尻尾に向かうほどに細くなっていき
尾ビレは1本のヒモ状になっています。
結 ^^;
タチウオの幅の表現の仕方として、指◯本などと指何本分の幅ほどの太さという意味合いで表現されます。
生きている間はやや青味がかった金属光沢で輝いています。
細い1本の線は、タチウオの側線です。
釣ったばかりのタチウオは持ち帰ったあともしばらく光輝いていましたが
死後ほどなくすると灰色がかった銀色となります。
タチウオの胸ビレはあまり発達していません。
尾ビレや
腹ビレは退化しています。(※写真上部のヒレは背ビレ)
その代わり、背ビレが大きく発達しています。
背中全体に背ビレが伸びていて
130軟条以上あります。
運動は主に背ビレを波打たせて行われます。
透明感のある背ビレ、先端部は砂模様のようになっています。
〈ここからはタチウオのさばき方、というか解剖をしていきます。〉
タチウオは、どうやって食べるかによって
下処理の仕方が異なります。
お腹を開くと内側が真っ黒。
この黒くて薄い膜(腹膜(ふくまく))をもつ魚は何種類もいるわけですが特に深海魚に多く見られます。
基本的に、深海魚と言われる生物は水深200mよりも深いところで生息しています。
タチウオは、エサを求めて海面付近まで上がってくる場合もありますが、
水深200m前後の深いところで生息していたりもしますので深海魚の仲間と言えます。
深海に多く見られる発光する生物などを捕食した場合、
喉から胃袋、腸から肛門までをその生き物に含まれる発光物質が通過します。
その際に内臓の中で発光した光が外に漏れてしまうと
その光に反応したフィッシュイーターが襲ってきて、自身が食べられてしまいます。
そうならないように黒い膜でその光を遮断していると言われています。
これくらいの黒さだと、光が漏れてしまうような気もしますがね。。
きっと凄い性能を備えているのだと思います。
深海で泳ぐタチウオがを見に行くしかないですね。
それと、深海魚でなくても腹膜が黒い魚もいます。
例えば海面付近に生息するサヨリ。
サヨリの場合は、プランクトンを食べる魚ですが
植物プランクトンを食べた場合、魚体が透けていると
日光で植物プランクトンが光合成してしまい、体内で酸素を発生してお腹が膨らんで浮いてきてしまいます。
そうならないように紫外線を遮断するために腹膜が黒く進化したと言われています。
深海魚の腹膜の意味合いとは違うのが面白いところですね。
左が心臓
右が肝臓
写真左下がタチウオの肝臓
中央の薄ピンク色の長い内臓がタチウオの胃袋です。
左が肝臓
右下が幽門垂(ゆうもんすい)
タチウオの幽門垂(ゆうもんすい)
タチウオの心臓
体の割に小さいように思いますが、
これで十分な機能があるというのが心臓のすごいところです。
赤い部分に心房(しんぼう)と心室(しんしつ)があり
白い部分は動脈球(どうみゃくきゅう)です。
この細長く黄緑色のものは、タチウオの胆嚢(たんのう)です。
多くの魚の胆嚢は丸いですが、タチウオの胆嚢は細長いことがわかりますね。
オレンジ色のものはタチウオの卵
【気持ち悪いという勿れ】
ぐるぐると丸まったアニサキスが確認できますね。
アニサキスは、サバ、イカなど一定の魚種に存在するように思っている方もいらっしゃいますが
アニサキスに寄生された生きものを食べた生きものに繋がっていきますので
様々な魚の中にアニサキスがいる可能性があるということに注意して調理し食さなければなりません。
このタチウオにも十数匹おりました。
【クイズ】
アニサキスは何匹いるでしょうか?
料理人だけでなく、食べる側の人も
目視ですぐに確認できる習慣をつけておいたほうが
これからの時代、身のためだと思います。
パッと見ただけでも5匹は確認できます。
アニサキスクイズの正解はこちらです。
気持ち悪い写真と思う方も多いかもしれませんが、お魚を今後も美味しくいただくために、ご容赦くださいませ。みんなで知識を高めていきましょう。まず予防です。
タチウオの腎臓を覆うように浮き袋が張り付いています。
浮き袋の端をつまんで引いていくと、
黒い腹膜と一緒に剥がすことができます。
うまく一緒に剥がせると快感です。
俗に血合いと呼ばれる腎臓部分が見えてきました。
タチウオは体が長いので、腎臓も長いです。
腎臓は薄い膜で守られていますので
このように包丁で切ると現れます。
タチウオのエラ
細長い顔と体に合わせて、エラもスタイリッシュな形をしています。
エラと言っても、大きく二つのパーツに分かれています。
赤い部分が鰓弁(さいべん)、白い部分が鰓耙(さいは)です。
鰓弁(さいべん)は、細かいクシのひだのような鰓葉(さいよう)が集まってできています。
魚は、海水に溶けている酸素を、この鰓弁から血液中に取り入れます。
泳ぎながら口から取り込んだ海水は、鰓弁のあいだを通って出て行きます。
鰓耙(さいは)は、白く弓なりの鰓弓(さいきゅう)の上についているトゲです。
通常は細長く、細かいのれんのような形状でプランクトンを濾しとるためのパーツですが
ある程度の大きさの肉食魚の場合はプランクトンを主食としないため短いトゲになっています。
タチウオをぶつ切りにして食べる料理などの際は、背骨をとってしまったほうが食べやすいです。
タチウオの背ビレを支える背骨は、両側からこのように切り込みを入れて引っ張ると
一気に取れます。
通常の魚と同じように3枚おろしにする場合は、
背骨は取らず中骨に付けたままおろします。
身に骨の跡が残るほどスレスレに。
【タチウオのお刺身】
タチウオは銀色の皮だけ引くことは難しいのと、
皮と身の間に旨味が多く含まれるため
このように『銀皮造り(ぎんかわづくり)』という皮付きのお刺身にします。
背ビレがあまりにも美しかったので、お刺身と一緒に飾ることにしました。
飾り包丁を入れれば入れるほど噛み切りやすくなり
醤油などの調味料の乗りも良くなりますので、
食べる方の条件に合わせて飾り包丁の入れ方を変えることをお勧めします。
タチウオの塩焼きをしていきます。
お刺身でも食べられる鮮度ですので、皮をパリッと身をフワッとさせるために
強火で短時間で焼き上げます。
骨も一本もありませんので、焼き魚の小骨が苦手なお子様などは
こういうものから食べ始めると魚が好きになるのではと考えています。
骨を上手に外しながら食べるのは、大きくなってからで十分だと思うからです。
タチウオロール
【タチウオのロール塩焼き】
【タチウオの頭の丸焼き】
同じように見えて、全く違う個体。
焼くことで、魚の特徴が如実に現れます。
魚を見ながら魚を食べることで学びもあり、感性も磨かれます。
うちの息子たちが焼き魚を丸ごと食べるようになったのは、
幼少の頃に、骨なしの美味しいお魚をよく食べさせていたことも要因にあると思います。
小さい子には贅沢だ。ではなく
小さい頃に美味しいものを食べさせて、好き嫌いを減らしてあげるのも一つの食育だと考えています。
骨が全くなくて美味しいお魚や甘味が強いピーマン、豆の味をしっかり感じる豆腐など
この食材は美味しいんだと感じてさえしてくれたら
その後は、自然と好んで食べてくれるようになります。
魚の頭の丸焼きは難易度が高く思われがちですが
段階を踏んでいけば、とても面白くて、美味しい部分だということが理解できるようになってきます。
【タチウオの炙り握り寿司】
タチウオを揚げ焼きにして
今回は中華料理に
どんな料理ジャンルでも活躍できるのもタチウオの良いところです。
タチウオの尻尾は切って捨てられてしまうことが多いのですが
素揚げにするとポリポリ食べられて美味しいですよ。
【タチウオのしっぽの素揚げ】
【タチウオの炊き込みご飯】
【タチウオのお茶漬け】
【あつばあおさとチーズを巻いたタチウオロール】
乾燥あつばあおさをチーズと一緒に巻き込んで
チーズの旨味に、あの山菜のようなあつばあおさの苦味をぶつけた一品です。
ふわとろっとしたタチウオロールに、加熱されてモチっとなったあつばあおさの食感が加わり
大人のつまみには最適です。
【タチウオの梅しそロールソテー】
細めのタチウオだったらそのままクルクル。
幅広めのタチウオが釣れたら、幅を調整したり、観音開きにしたりしながら
大きさを調整します。
【タチウオチーズロール はばのりを添えて】
タチウオやチーズから溶け出た美味しい油分を
焼いたはばのりにたっぷりと染み込ませていただきます。
焼いて水分を飛ばしたはばのりは、逆に水分をしっかりと吸ってくれるようになります。
いかに美味しい水分(スープ、オイル、ソースなど)を吸わせるかで
はばのりと水分を掛け合わせた、何通りもの相性を試すことができます。
写真にあるように、しっとりと染み込ませて食べるはばのりもまた格別な美味しさがあります。