陶芸家 竹下鹿丸さんと粘土掘りに行ってきました。
栃木県 芳賀郡 益子町。
僕が愛する陶芸家。
竹下鹿丸(たけしたしかまる)さん(1977年生まれ)と粘土掘りに行ってきました。
食材がなければ寿司が作れないように、
土がなければ陶器は作れません。
いわば、原点です。
当たり前のように思いますが、
土を掘ってから器にするまで、全行程を自身でするというのは
大変なことです。
分業が基本の器の世界で
最初から最後まで当たり前にやってしまうのが竹下鹿丸さんです。
同業者からの尊敬の声は良く耳にしています。
僕が鹿丸さんを好きでは足りなく、
愛してしまうのは、このあたりの志が要因だと思われます。
以前、益子、笠間の陶芸家さんたちの器だけで
酢飯屋バーベキューを楽しむ企画を開催した際にも、
鹿丸さんは来てくださいました。
【shikapedia(シカペディア)】という造語が出来てしまうほど
物知りで、人が作れるものなら、なんでも作ってしまえるような
知識と技術。
斜面を利用して器を焼く窖窯(あながま)も勿論手作りですし、
パソコンだって組み立ててしまいます。
料理も作れるし、やる気になれば家だって作れる。
一人の男として、本当に尊敬しています。
2011年3月11日。
東日本大震災で鹿丸さんの窯は全壊してしまいます。
1年かけて修復し作陶再び、と思っていた矢先に
2012年5月 北関東を大型の竜巻が襲いました。
今度はご実家が全壊。
立て続けの自然災害にも屈することなく、
むしろ、地球の底からのエネルギーを味方につけたように
力強く、生きている器を世の中に生み出しています。
益子で生まれ育った鹿丸さんのお父様は陶芸家でもありますが、以前は探検家(主に南米)、
お母様もペルーやボリビアで買い付けてきたアルパカセーターなどの販売を手掛ける方で、2015年に【水道ギャラリー】でも『アルパカセーター展』を開いてくださいました。
鹿丸さんにはグループ展などでもお世話になりましたが、
2015年3月の『陶芸家 竹下鹿丸-たけしたしかまる- 個展』で、その凄みを魅せつけられました。
(植物:ドウダンツツジ)
ちなみに
僕たち夫婦のご飯茶碗は、鹿丸さんのお茶碗です。
このお茶碗がもつ目に見えないパワーに包み込まれるようにご飯をよそうと
土を通して伝わってくる温かみが、毎回の食事を味覚以外の部分で盛り上げてくれます。
というわけで、
今回はそんな器の原点である
原土を、鹿丸さんと一緒に掘りに行かせていただきました。
道具をトラックに積み込み現場に向かいます。
車中、鹿丸さんとは、何を話していても面白く、勉強になることばかり。
話をしていたら、あっという間に現場に到着しました。
木や草がわさわさ生い茂るこの場所からもう少し車で入っていくと
出て来ました。
益子の土の現場。
しかし、素人が見てもどの土を掘ればいいのか?
色で選ぶのか?
鹿丸さんに聞いてみると、
ピンポイントで、ある部分を掘り始めました。
この、何色と表現したら良いのか、
土の色のもので、
上層部の赤土のさらっとした土とは異なった
粘りがあるまさに粘土質のこの部分を目掛けて掘っていきます。
こんな感じの現場です。
ふざけてでも落ちたくない急斜面。
僕たちが食材を見たら、これをどう調理しようか考えるように、
きっと土を掘りながら、もう焼き上がりの器をある程度想像出来てしまっているのでしょう。
サクサクと掘り進めていくわけですが、
みなさまもご存知の通り土は重く、かなりの重労働です。
あらかじめ購入してきた土嚢袋(どのうぶくろ)と道具類。
土を掘る陶芸家。
魚を釣る寿司屋。
最初から最後までを知ることが
その素材の魂の行き来を感じるための
一番の手段だと僕は考えています。
知らないよりは、知っているほうがいい。
この場所で土を掘られて数十年。
奥には池ができていました。
しかし、どれだけ人間が掘っても、たかが知れていると思わされるほどの
広大な敷地。
今日も地球に感謝です。
撮影はほどほどにして、僕も掘らずにはいられなくなってきました。
おっも。
でもこの重みは、自然の重み。
土に感謝の念が生まれた感覚は初めてでした。
海の後の長靴と違って
山の後の長靴は底に粘土がビッシリ付いて、倍重くなってました。
何十キロもある土嚢袋を荷台に積み込んで粘土掘りは終了しました。
これは、先ほどの土を2ヶ月くらい乾かしたもの。
この土を細かく潰していきます。
基本的に粘土は、水簸(すいひ)した状態で売られています。
水簸(すいひ)というのは、原土を水に沈めて石や砂など余計なものをとることです。
その粘土で器を作ると焼き物がつるっとしてしまいます。
鹿丸さんがやっているのは、はたき土といって、
掘ってきていったん乾燥させた土を砕いて荒い石だけ手で取り除く方法です。それをそのまま練って粘土を自作しています。
原土をフレットミルで粉砕し、
水を加えて混錬機で混ぜる。
一日作業して250kgくらいの陶土ができるそうです。
なので鹿丸さんの器を手にとるとブツブツを感じることが多々あります。
かなり細かく土を砕いても、どれくらいの石を取り除くかで素材が変わります。
ふるいにかければだいぶ多くの土が取れますが、
それはしないで手で触りながら取り除いて
鹿丸さんの望むような荒っぽさを出しているそうです。
ろくろも挽きにくいし、穴があいたりふちが破れたり真円にならなかったり。
荒々しい土を使っているにも関わらず、鹿丸さんの焼き締めはそれが絶対的魅力になっています。
土に適した形を探り、土に無理をさせないように作陶している鹿丸さん、
それでも自分の器を主張することはなく、
基本的にはお酒と料理がおいしくなる器を心がけていらっしゃるそうです。
薪用の木を切りながら、新しい道を開拓。
奥に見えるのが鹿丸さん自作の窖窯(あながま)です。
レンガで作られたこの窯は2ヶ月で完成したそうです。
ピザ窯なら1日で作ってしまうでしょうね。。
自作の煙突。
この煙突を利用して、もう一つ小さめの窯を作ろうと思っているそうです。
東日本大震災後に、僕が前回お伺いした時の写真がこちら。
修復後の窯からは、気をビンビン感じました。
粘土を成形し、乾燥させ、生素地になった器、窯詰めするとこんな感じに。
着火後、どんどん温度が上がる窯の中。
大壺や棚の作品にどれくらい灰がかかっているかを目視で確認しながら
高温状態をどこまでキープするか見極める。
ただひたすら薪をくべるだけと鹿丸さんは言いますが、
この微調整もまた技術だと思います。
1260℃
灰が溶け始めてます。
煙突からも飛び出してくるほど勢いのある炎。
窯焚きが無事に終了すれば
窯出し→やすりがけ→洗浄→ラベル貼り→梱包→納品と
やらなければいけない仕事がいくらでもあります。
この焼き締められた質感がたまりません。
お?なんですか?この色は??
作風が全く違いますが。
見惚れてしまう自然釉の色と流れ。
栃木県北部の山奥で掘った原土で、無精製で掘ったそのまま。
灰と反応しやすく、還元で焼くときれいなブルーの自然釉が出るそうです。
丸っこいのは【道具土(どうぐつち)】。
粗い陶石、珪石粒子を多く含んだ、耐火性が高い粘土です。
鉄分が少なく、焼成時に作品がくっついたりしづらくなるものです。
こちらの茶色が益子の原土
この粘土からできるのは
こんな感じ。
こちらのブルーグレイな限度は栃木県北部で掘ってきた原土。
これを焼いたものが
こんな感じ。
『せっかくなので、明日はこの青い土を掘りに行きましょう!』と鹿丸さん。
二つ返事でOKです。
今日は肉体労働系でしたので、夜はゆっくりじっくり語り合いながら飲みましょう。ということで日本酒が多く揃うお店で鹿丸さんと飲み語らうことができました。
気がついたら翌朝。
こちらは昔の登り窯を改築してゲストハウスにされているところがあると聞いて、今回宿泊させていただいた場所。
今も土掘り日和な良い天気になりました。
栃木県北部のある場所に向かいます。
昨日の場所よりもワイルドさが全然違う山の中。
時々、クマさんも出るそうです。、。
鹿丸さんが掘り始めました。
うわ!なんだこれ??
昨日見せていただいたあのブルーグレーなあの土と同じ色だ。
この茶色の土が被さった奥に、こんな土があるなんて。
粉にして水で練ったりしなくても
もうすでに、この土自体が粘土です。
それくらのねっとりとずっしりとした土。
素人が触ってもあきらかに使いやすそうな土です。
それでは、今日も掘らせていただきます!
鹿丸さんは、もう次の地層の確認をしていました。
土掘りをするためのスコップと別に、
なぜかハンマーも持ってきていた鹿丸さん。
こうして、気になる石、岩などをたたき、
面白い鉱石が見つかれば楽しいからと。
どこまでも最高な鹿丸さんです。
自分の子供心がギュンギュン甦ってきます。
この土と昨日の土、少しずつ酢飯屋に持ち帰ることにしました。
見たい方、触りたい方はお店で、お声がけくださいね^^。
掘り過ぎても、車まで持ち帰るのが大変ですので
ある程度掘ったら、山の中をお散歩タイム。
ええ!洞穴!!!!!
誰か出て来たらヤバイっすね。。。
どうやらこの辺りは鉱山で、昔はだいぶ掘られていたようです。
そして、鉱山の近くに、良い土あり!
と鹿丸さんはおっしゃっていました。
結構しっかりと水の流れた跡。
透明度の高い水がそよそよと流れています。
川底の綺麗な石を見ながら、
そろそろ帰路に。
今回、二ヶ所の原土掘りに連れて行って下さった鹿丸さん。
そもそもの、その土の違い。
有機物と火、自然が起こす化学反応。
仕上がりの表情。
改めて、自然と器と人間の関係を肌で感じさせていただけました。
鹿丸さんの作品倉庫へ
直接、鹿丸さんに会いに行き、この場所でじっくり選ばせていただくこともできますし、もちろんギャラリーなどで開催される個展などでご覧いただくこともできます。
益子の陶器市で人気の
『鹿丸BAR』では、お酒やおつまみを楽しみながら、鹿丸さんの作品をじっくりと見ることができます。
いつかの陶器市にて。
土掘りから始まり、
様々な工程を経て、魂が入った器になり、
そこに、
たくさんの生産者さんと自分たちの魂を込めたお寿司を盛り付けさせていただく。
食材魂と素材魂がここに極まります。
目には見えないこの魂の一皿を、
是非感じながらお召し上がりいただけましたら幸いです。
衣食住の全てに関わってきた重要なものの一つとして
土があるんだと今回気がつきました。
土から生えた植物で衣類を作り
土でできた作物を食べて、
土で住居を作り生活する。
生命の多くは土がなければ生きられない。
だから人間も土に触れていると
本能的に穏やかで、安心した気持ちになりやすいのだなと。
僕も土、石、砂、泥、水、生き物など
色々と触る機会を作ってはいましたが、
やっと土の凄さに気がつく事ができました。
土だけに、掘り下げれば掘り下げるほど
もっと多くの気づきを与えてくれると思います。
掘ってみなければわからないこと。
僕の基本理念は『やりたいことは、やってみる』。
です。
これからも寿司にまつわる事が主体となりますが
酢飯屋メールマガジンにて、発信を続けていきたいと思います。
鹿丸さんとはその後も、色々なメディアで共演させていただいております。
フランスの寿司漫画 『L'Art du Sushi』
NHK 『鑑賞マニュアル 美の壺』
File:486 「すこやかな芸術品 益子焼」
などなど。
ここからは、
竹下鹿丸コレクション(写真集)です。
酢飯屋の寿司のお取り皿です。
南蛮丸平皿 表
南蛮丸平皿 裏
南蛮丸平盃 表
南蛮丸平盃 裏
南蛮丸平盃 横
竹下鹿丸さんの陶印
白磁自然釉箸置
南蛮平四角皿
南蛮長皿
南蛮丸皿 表
南蛮丸皿 横
南蛮丸皿 裏
南蛮丸皿 裏
南蛮四角皿(大)
このヒビに惹かれました。
竹下鹿丸さんの陶印
南蛮茶碗
南蛮ビアカップ
南蛮湯呑
南蛮徳利
南蛮片口
南蛮片口
南蛮片口鉢
織部長皿 表
織部長皿 裏
白磁桝形ぐい呑
モンタナぐい呑
鹿丸さんがアメリカ モンタナ州で掘った土で焼いたものです。
南蛮片口鉢とともに。
寿司のお取り皿として使わせていただいている、大切なうつわ。
素材や状態にもよりますが、
たまにこうして煮沸殺菌もしています。
良い菌は大好きですが、悪い菌はゴメンねバイバイ。