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寿司職人ならではのECサイトに込めた思い

[岡田イズム神楽市場]

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[神楽市場]扱う商品は目利きした「本物」だけ。寿司職人ならではのECサイトに込めた思い
2019.12.17 - インタビュー

東京都文京区水道、神田川にかかった石切橋を渡ると、
こぢんまりとしたギャラリーのような建物が見えてきます。
そこが完全紹介予約制の寿司屋として、知る人ぞ知る「酢飯屋」です。
寿司屋だけでなく、カフェやギャラリーとしても店舗を活用。
そして代表取締役の岡田大介さんが目利きした商品だけを扱うECサイト「神楽市場」も展開しています。
今回は、岡田さんに、独自の目利きによるECサイトの背景から、
寿司職人としての考え方まで語っていただきました。

神楽市場
自分達が使う食材や道具などは、可能な限り現地に足を運び、五感で確かめる。
そうした酢飯屋、岡田大介さんの哲学や視点に基づき厳選された商品を扱っている。


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ECサイトの最初の商品となったのが、「塩のり」です。
佐賀県を訪ねて、海苔漁師さんと海苔漁に行ったんですね。
その時に食べた海苔の衝撃が商品化につながりました。
実はそれまで、寿司屋なのに、海苔を使わないでやっていました。
かんぴょう巻とか納豆巻とか海苔を使ったものは出さない。
理由は、「これ!」という海苔に出会っていなかったからです。
もちろん、海苔はどこでも買えたんですが、
「これ!」というのが見つかるまでは使わないと決めまして。
ひねくれた性格なんです(笑)。

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それは器も同じです。
たとえば、店舗のお醤油さしですが、僕はずっと100均のものを使っていたんです。
「なんでこれ?」「こんなに素材はこだわっているのに醤油さしは100均なんですか?」と
お客様には思われるのですが、
ちゃんと理由があって、「これ!」という醤油さしがなかったからです。
そういうものが見つかった時に一気に変えるので、
それまでは最低限でやっていこうと考えました。
そのぐらい海苔も極端に、「これ!」というのが見つかるまでは使わないと決めていたんです。
海苔漁師の方と出会って、「ウワー、これだ!」となったんです。
そこから、純粋に商品化したいと思いました。
自分が商品を作ったりネーミングやパッケージを考えたり、
ゼロからやってもいいことなんだって思ったんですよね。
商品化して売っても、誰にも怒られない。
ただ、売れるかどうかは別の問題ですけど、
商品を作っていいんだというのに、25歳ぐらいのときに気づいたんです。
それでいざ「塩のり」を出してみると、売れていくわけです。
自分が出したお寿司を食べている、目の前のお客さんの支払うお金と
ECサイトで売上になるお金では、流れが全然違うわけです。
商品が、ECサイトを通じていろんなところに届いてる感覚がすごく面白いと思ったんです。
僕が商品化した海苔をパリやニューヨークで食べている人もいるわけですから。
ここが、ECサイトの面白さだと実感しました。

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寿司屋のECサイトとは思えない独自の展開
ECサイトの屋号を「神楽市場(かぐらいちば)」とつけました。
「神楽」は御神楽という雅楽(国風歌舞)がありますが、
僕の中では文字通り、「神様が楽しい」という意味を込めました。
神様が楽しいって相当なことです。
すごい喜びがある。送った人も、受け取った人も嬉しい。
そういうものを商品化していきたいと考えて、ECサイトは「神楽市場」にしたんです。
「神様が楽しい」という点を基準にすると、このECサイトでは変な物は出せませんよね。
いまはオリジナル商品だけでなく、仕入れたものも扱っています。
比率は、6割ぐらいが酢飯屋のオリジナルですね。

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仕入れる商品の選定基準は、自分がどこで納得しているかという部分だと思います。
店舗に置いてある商品の内、自分が作っていないものは、
店舗で調味料やドリンクとして実際に使ってるものや使いたいと思っているものです。
実際、使っているものは、海苔と同様に僕が現地まで見に行ったものなので、
そこで納得して生産者さんと関係を築いてきたことが前提にあります。
一方で、はちみつや落花生ペーストなど、
一見寿司とは関係ないものを売ってることを不思議だと思うお客さんもいます。
お店で使っているものもあれば、プライベートで気に入ってるようなものもあります。
はちみつは、プライベートで気に入ってる商品なんですが、めちゃくちゃ売れるんですよ。
寿司屋ですよ? うちは。おかしなことになってます(笑)。

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実は、酢飯屋でやるイベントの申し込みもECサイトでカート化しています。
効果としては、まずキャンセルがないこと。
次にイベント当日は受付だけで決済が必要ないこと。
イベントはイベント、物販は物販で寄せようかとも考えたのですが、
探す方は、混ざっていても探してくださるので、
一緒にしておいたほうが見ていただけるかなと思っています。
最近思ってるのは、外国人のお客様が週に何組かいらっしゃるのですが、
その予約をカートにできないかということ。
外国人のお客様は、酢飯屋のシステムを完全に理解しないで予約してくださることが多いので、
ドタキャンもあり得るわけです。
日本人のお客様でキャンセルがあった場合、ご紹介制でやっていることもあり、
キャンセル料を払ってくださる。
しかし、外国人のお客様はそこまで追跡できない。
たとえば、料理を含む予約はカート化にして事前にクレジット決済、
ドリンクのみ当日キャッシュか、クレジットカード決済にする。
こんなことができれば、カートの使い方としては面白いなと思っています。

僕は独立して最初に住居兼店舗として、八丁堀に住みました。
理由は、築地駅の隣だから。朝どんなに遅く起きても築地まで歩いて行けます。
それは仕入れる仕入れない関係なく、魚のことや流通が学べるわけです。
頻繁に築地に通っていたところ、流通が見えてきたんです。
僕らは仲卸さんから魚を買って、それを寿司屋で出すの一般的な流れなのですが、
「あれ?」と思うことがよくあったんです。
鯵を買おうと思って産地を聞いたら、「千葉県産だよ」って言うんですね。
同じお店の別の方に「この鯵はどこのですか?」と小声で聞くと、
「和歌山だよ」っていうんですよ。
それでトロ箱(発泡スチロールの箱)には「三重県」と書いてある。
僕がこれを買ったら、どこ産と言ってお客様に出したらよいかわからない。
こういうお店があって、なんでそういう風に適当な産地を言うのか、
自分なりに考えたんです。
魚を仕入れてるバイヤーさんは、もちろん産地をわかって仕入れているでしょうが、
朝、忙しい市場では末端の従業員さんまでその情報が行かない可能性がある。
もちろん真面目に売ってるところがほとんどです。
でも、そうじゃないところもあった。
もしくは僕が若造だったからかもしれませんね。
「別に千葉って言おうが、和歌山って言おうが関係ない」と、
人を見て思われたかもしれない。
しかし、これはいかんと思って、
鯵は鯵の獲れているところに見に行く、アナゴはアナゴの獲れているところに見に行けば、
答えが出ると感じはじめていたんです。

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いまでも全国まわって食材探しの取材はしています。
取材して、店舗でも使って、ECサイトでも商品化して、すべてのコンテンツを作成してと、何から何まで。
でも、タイミングを逃しがちで。
昨日、ブログの下書き記事の件数を見たら、4,300件ありました(笑)。
下書きですよ。
写真はアップしてある状態で、あとは記事を載せるだけで、
僕としては4,300件インプットしているわけです。
僕はアウトプットしないと気持ち悪い人間です。
だから、インプットして出せないままなのが、すごく気持ち悪い。
どんどんアウトプットして、売ってもいいし、売らなくてもいいし、
発信し続けたいんですけど、時間が足りないんですね。
だったらインプットをやめればいいんですけど、やっぱりできません(笑)
魚の場合、数週間でシーズンを逃してしまうこともあるので、
1年前に撮ったものを翌年にアウトプットすることもあります。
よっぽど体力と時間がある時でないと、
取材して、記事を書いて、販売まで一気に行うのは難しいです。
それでも、オンラインの商品の説明は、すべて自分で書いています。
自分が商品にしたものなので、そこを人に任せちゃうとブレるので。
責任をもって、自分が「こうしたら美味しいよ」と書くべきですよね。
メールマガジンでの情報発信も重要だと思っています。
必ずしもECサイトの紹介だけではないです。
まずは、自分の活動を知ってもらうほうが大きいですね。
当たり前ですが、毎月のように販売のメールが来ると、
好きな人はずっとファンでいてくださると思うんですが、
どうしても解除・解約されていきますよね。
でも、僕は自分の活動自体に興味を持ってくださっているお客様がどれぐらい残るかに興味があります。
買わなくてもずっと見てくださっている方もいらっしゃると思うので。
あとは、店舗自体が紹介制なので、店舗を忘れられてしまうと寂しいので(笑)。
「まだ生きてやってるんだな」という確認をしてもらうぐらいの気持ちで。
また、Facebookもやっているんですが、個人の友だちは上限が5,000人なんですね。
メールマガジンでしかお知らせできないお客様の方が多いので、
Facebookよりもメールマガジンを優先しています。

日本全国で食材探しをしていると、行く先々で当初の目的だった魚以外にも、
その地元にしかないお寿司のほか、野菜や豚肉なんかもご紹介いただくんですよね。
でも、寿司屋だから豚肉は使いにくいと思っていたのですが、
途中でその考え方がおかしいと思い始めたんです。
食材全部、すべてを「生き物」という括りで見た時に、
野菜も肉も魚も一緒じゃないかと考えるようになりました。
今は牛を一頭買いしてるんですけど、
僕の親方が見たら肉寿司はありえないと絶対言うでしょうが、
現在、肉寿司は普通にあります。
野菜寿司なんて、もう昔からいろんなとこにあるぐらいです。
寿司の歴史調べていくと、大昔にはイノシシ寿司があったりするんですよ。
それぐらいすべての食材をフラットに見ていくことにしています。
その中で、店舗で出すにしろ、ECサイトで販売するにしろ、
僕の中の基準で、本物か偽物かをまず見極めなければいけません。
僕の中の基準としては、人が手をかけて作っているかという点が重要です。
人の手がかかっているから、魂が入っていくわけですけど、
人の手で作られていないもの、大量に作られちゃっているものに、
魂を感じないものは多いです。
生き物と向き合っている生産者さんはいいのですが、
その方の食材からできた郷土寿司が、僕の基準で言う偽物になってしまうケースがあります。
たとえば、ある押し寿司は、長持ちさせるために加工されていました。
このままじゃ誰も食べたいとは思わない味だったし、
ひと口食べたら何かが入っているとわかる。
生意気に意見をして一緒に郷土寿司を作り直してきたこともあります。
でも、頑なに変えないという地域もありました。
僕はその地域の人間ではないので、
そこの人がダメ、やらないと言ったら、受け入れざるを得ない。
ちょっとでも柔軟に考えを変える方がいる場合は、
郷土寿司自体のクオリティを変えるお手伝いはさせていただきます。
偽物調味料から本物調味料に変える、偽物の食材を本物に少しだけ変える、
そういったお手伝いをするのが、自分の立ち位置だと思っています。

これから先は、寿司に絞っていきたいんですよね。
カフェもギャラリーもゆくゆくはやめます。
カフェをやりたいわけではなく、
寿司屋をやっていて時間があったからカフェをやっていただけ。
ギャラリーもそうです。
寿司屋をやって器にこだわったことからギャラリーがはじまりました。
すべて寿司を軸にはじまってはいますが、
もういいかなというところも感じています。
寿司にもっと絞っていく傾向になると思います。
ECサイトの中でも、寿司に関係してるかどうかで商品も絞られてくると思いますし、
どこかの郷土寿司が食べられるようになるかもしれません。
あと、僕と一緒に郷土寿司を体験するツアーもECサイトの中に入ってくるかもしれませんね。

インタビュー後記
岡田さんの寿司にかける情熱と行動力は、普通ではないレベルでした。
産地を取材する食材探しから、ECサイトで扱う商品の目利きまで、
岡田さん自身が「良いと判断したものを提供したい」という
首尾一貫した「思い」がありました。
岡田さんがそこにかけている時間と手間は、想像を絶します。
その結晶とも言える4,300本の下書きが少しずつ公開されるのが実に待ち遠しいです。
これから先、岡田さんがどんな寿司文化を発信してくれるのか、
ECサイトが寿司を軸にどう進化していくのか、楽しみです。

ヤマトフィナンシャル EC百景 取材記事より