赤米(あかまい)・red rice
赤米(あかまい)、あかごめとも呼ばれます。
イネの栽培品種のうち、玄米の種皮または果皮の
少なくとも一方(主に種皮)に
タンニン系の赤色色素を含む品種を指します。
中国では「紅米」と呼ばれています。
野生のイネのほとんどは赤米です。
【古代米 = 赤米】とされることもありますが、今のところ科学的根拠はありません。
黒米を赤米に含める場合もあります。
民俗学者の柳田國男先生は、赤飯の起源は赤米であると主張しています。
イネには遺伝的に普通米とは異なる色を呈するものがあり
有色米や色素米と呼ばれています。
通常、有色米や色素米も玄米の種皮や果皮などの糠層を除去して
完全に精米すると普通米と異ならない色です。
赤米は玄米外層部の種皮層に赤色系の色素が蓄積した米または
そのような性質を有するイネをいいます。
赤米はタンニン系の色素をもつもので、
日本、中国、南アジア、東南アジア、アメリカ合衆国、イタリア、ブラジルなどにみられます。
有色米や色素米には
タンニン系の赤米のほか、
アントシアニン系の黒米(紫米、紫黒米)、
クロロフィル系の緑米があります。
赤米にもジャポニカ型の短粒種とインディカ型の長粒種があります。
長粒種はベトナムのチャンパから11世紀に中国に伝播しました。
赤米品種は日本全国に残存しており、その形質もさまざまですが、
一般的には吸肥力が強い、病害虫や気候の変化などの環境変化に強い、
棚田などの環境不良田であっても育成が比較的容易といった特徴があります。
一方、丈が長く倒れやすい、収量が少ないなどの難点も有しています。
赤米は、玄米の種皮または果皮の少なくとも一方に
タンニン系の赤色色素を含み、主に種皮部に含まれています。
種皮部だけでなく果皮部にも色素をもつ品種もありますが、
そのような品種は見た目が紫黒米に近いです。
タンニンを多く含む植物には血圧を低下させるなどの薬理効果があるとされ、
赤米にもそのような効果が見込まれていますが個人差は否めません。
種皮より下にある糊粉層やデンプン層まで赤い場合もあり、
これは種皮の細胞が壊れて色素が漏れるためと考えられています。
色素成分のほとんどは表層10%ほどを占める糠層にあるため、
完全に精米すると普通品種の白米と区別がつかないほど白くなります。
そのため玄米のまま、あるいは軽く精白して食すのが一般的です。
米が赤くなるのは籾(もみ)が成熟し収穫できる直前になった時点です。
そのため、収穫のタイミングが早いと米の色づきが悪いです。
籾が成熟する前に枝梗(しこう)が枯れたり根が弱ったりしても色づきが悪くなります。
赤米の赤色は貯蔵中であっても濃さを増していきます。
その原因はタンニンがポリフェノールオキシターゼなどの作用によって
酸化重合するためです。
ちなみに芒(のぎ)も赤色で、
出穂の様は「田んぼが火事になったようだ」と言われることもありますが、
高温や乾燥によって着色が悪くなります。
芒(のぎ)とは、稲や麦などの実の殻にある針状の毛のことです。
芒の赤色が最も美しいのは出穂後1,2週間です。
「そのままではとても食べられない」といわれるほど味に難点があります。
原因としては普通品種と比べてアミロースやタンパク質が多く含まれることから
粘りがないこと、色素成分であるタンニンが渋みをもつこと、
赤みを残すために精白を抑えざるをえないことが考えられます。
文献上でも、「殆んど下咽に堪へず。蓋し稲米の最悪の者なり」
などと記述されているほどです。
赤米の味は、もち米を混ぜることで改善するとされています。
が、
赤米などの古代米は単体で炊いても美味しいですし、
茹でるだけで食べることができます。
岡田家の【赤米の茹で方】
サッと洗い、鍋に入れ、
水をたっぷりかぶる程度に入れて中火にかけ、
沸騰したら弱めの中火にて約10分茹でます。
ざるにあげて湯を切り完成です。
冷やしても美味しく、ほどよい歯ごたえもあり
サラダ感覚で食べられます。
オイルやスパイスとの相性も良いので
様々な料理に加えて、アレンジ自在です。
赤米は雑穀米として白米や他の雑穀と共に飯にしたり、酒や菓子、麺類などに加工されます。
酒については、赤米をはじめとする有色米を使って着色酒を製造する方法が
1980年代に日本で考案され、特許を取得しています。
蒸した赤米を酵素剤で糖化した後で発酵させる方法でワインの製造が試みられたこともありますが、
これは十分に色が出ず失敗しています。
赤米は脱粒しやすく越冬性も強いため、他の圃場に混入することがしばしばあります。
普通米を栽培するにあたっては、
赤米などの有色米が混入すると米の検査等級が下がってしまいます。
そのため直播き栽培を採用する地域では歴史的に排除・駆除の対象となっています。
観光資源としても活用されており、
たとえば山口県萩市(旧須佐町)では
赤米の花が咲く9月中旬に花見フェスタが開催されています。
【日本における赤米の歴史】
紀元前に日本に伝来した際、
米には白米と赤米とがありましたが、
赤米は白米によって次第に淘汰されていったと考えられています。
伝来した赤米には、より古く伝えられた日本型と、新しく伝えられたインド型とがあります。
日本型は低温に強く、インド型は低温に弱いという特徴があります。
日本の赤米に関する最古の記録は、
飛鳥京跡苑地遺構から出土した木簡にある赤米の納品の記述です。
藤原京や平城京の遺跡からも木簡が出土しており、
そこには赤米、赤搗米、赤春米といった言葉が書かれています。
後者の木簡からは、
7世紀末から8世紀後半にかけて赤米が丹波、丹後、但馬などから
藤原京や平城京へ貢物として輸送されていたことや、
酒の材料として用いられていたことなどがわかります。
正倉院文書の『大倭国正税帳』・『尾張国正税帳』にも
地方から赤米が納められた記述があります。
11世紀後半から14世紀にかけて
『大唐米』、『唐法師』、『秈』などと呼ばれる
インド型の赤米が日本にもたらされました。
室町時代中期の禅僧・江西龍派が杜甫の漢詩を講義した内容を
聴衆が書き留めたノート『杜詩続翠抄』(建仁寺両足院蔵)では、
赤米が九州で多く栽培されていると記されています。
江戸時代には農書を初めとして赤米の栽培や流通に関する多くの記録が残っています。
厳しい気候条件に強く、排水不良の土地でも良く育つことから、
低湿地や高冷地で盛んに栽培され、新田開発にも重宝されていたと考えられています。
近年の例だと、
明治期に石狩平野の泥炭地を開発する際に
青森から赤米品種の「赤室」が持ち込まれています。
しかし赤米は基本的に下等米として記述されており、
下級階層の人々の食べるものとみなされていました。
中世の年貢算用状には赤米で年貢を払った記述が散見していますが、
領主側からすれば赤米は年貢米としての価値は低かった。
また、江戸時代の藩の中には価格の安い赤米での年貢納入を禁じているところもありました。
赤米は次第に作付されなくなり、雑草化してしまいました。
明治以後、赤米は圃場の米の等級を下げる下等米として
全国的に撲滅が行われ、昭和末までには通常の水田で赤米が栽培されることはほぼ無くなりました。
しかし、戦後においても、赤米が圃場に混入する事例が時折みられており、
特に1960年代以降長野県で繁殖を続けている「トウコン」は
駆除活動が続けられていますが、いまだ根絶に至っていないようです。
一方で平成に入ると多様な形質の米に関する消費者の興味が高まり、
1989年以降進められた農林水産省によるプロジェクト研究「スーパーライス計画」により
赤米も品種改良が進みました。
赤米や黒米に『古代米』という名称を冠して
「古代人が食べていた栄養豊富な米」という宣伝がなされるに至り、
赤米は俄然注目を浴び、現在では各地で栽培が行われるようになり
作付面積は年々増加しています。
【神事における赤米】
日本では明治以降、赤米が全国的な撲滅の対象となりました。
そうした状況の中、3つの神社で神事用に赤米が栽培され続けました。
岡山県総社市の国司神社、長崎県対馬市の多久頭魂神社、鹿児島県種子島の宝満神社です。
〈国司神社〉
総社市新本には2箇所に国司神社(新庄国司神社・本庄国司神社)があり、
それぞれが赤米を栽培しています。
栽培された赤米(神饌米)は岡山県の重要無形文化財に指定されています。
〈多久頭魂神社〉
多久頭魂神社では、寺田と呼ばれる水田で赤米が栽培され、神事に用いられています。
赤米にまつわる神事は1年間で13にも及びます。
〈宝満神社〉
宝満神社では、御畔と呼ばれる水田で赤米が栽培され、神事に用いられています。
その歴史は2000年に及ぶともされています。
宝満神社で栽培されている赤米は芒が白いという特徴があります。
日本型赤米と考えられていますが、ジャポニカ米とする説もあります。
【品種】
〈在来品種〉
・総社赤米
総社市の国司神社の神饌米として栽培されていたもの
・対馬赤米
対馬市の多久頭魂神社の神饌米として栽培されていたもの。
総社赤米よりも出穂期の芒の赤色が鮮やかとされています。
・種子島赤米
南種子町の宝満神社の神饌米として栽培されていたもの。
神社前の赤米館で見る事が出来ます。
・冷水
秋田県で栽培されていたもの。
・赤室・白むろ
青森県で栽培されていたもの。
・トウコン
長野県で繁茂している雑草米。
〈改良品種〉
・ベニロマン
農研機構(旧九州農業試験場)が育成。
対馬赤米と南海97号から作り出された改良品種。
ウルチ種。晩成。鮮やかな赤褐色、または濃紫色と評される芒をもち、
生け花やドライフラワーにも用いられています。
・つくし赤もち
福岡農業総合試験場が育成。
対馬赤米とサイワイモチをもとに作り出された改良品種。
モチ種。九州で栽培。晩成。赤褐色、または濃紫色と評される芒をもち、
生け花やドライフラワーにも用いられています。
・紅更紗・紅香
トウコンベースの改良品種。北陸で栽培。
・紅衣
赤室ベースの改良品種。東北で栽培。
・あかおにもち
岡山県農業総合センター農業試験場で総社赤米とサイワイモチから育成された。
総社赤米の地元、総社市で特産品として栽培されています。
【バングラデシュの赤米】
・カヤムクラム3(Kayamkulam-3)
バングラデシュで育成されている品種。乾燥に強い。
・ヴィティラ3(Vytilla-3)
バングラデシュで育成されている品種。塩分を含んだ土壌に強い。