包丁研ぎについて
2019年2月
三重県松阪市
70年以上続く【月山義高刃物店】の三代目
包丁研ぎ師の藤原将志(ふじわらまさし)さんに
包丁研ぎについて学びに行ってきました。
え? 料理人なのに包丁研げないの?
そうなんです。
ほとんどの料理人は、包丁研ぎをしっかりと教わることが少ないので
多くの料理人が独学に近い形で、包丁を研いでいます。
研げないわけではなく、
しっかり構造を理解してメンテナンス出来ていない。
という言い方が正しいかもしれません。
僕もその類でした。
研いでいても、納得のいく包丁になかなか仕上がらない。
というか、
正しい研ぎのゴールがハッキリと理解できていない。
マニュアル通りに研いでいるつもりでも
角度が微妙に違っていたり、
まさかの包丁自体が歪んでいるとか、
そもそもねじれた包丁だったとか。。
包丁研ぎを今更教わるのは恥ずかしいとか、
自分でひたすら勉強、練習すればいいじゃないかとか。
そう思われたりする方もいるかと思いますが。
そもそもの部分で勘違いしていたり、
無知だったりした時点で
包丁と自分との関係が残念なことになってしまいます。
しかし、
世界シャリサミット2019で藤原さんとお会いした際に、
多くの寿司職人が彼の話に耳を傾け、
技術ある寿司職人や料理人の方々でさえも、
彼のもとに包丁研ぎを習いにいく。
それを知った時に、
僕は藤原さんに包丁研ぎを教わろうと決心しました。
『包丁を研ぐ』、
それは、包丁の修理、メンテナンス。
修理するものの構造を理解せずして、十分な修理は出来ない。
藤原さんのお話は、どこの部分を切り取って聞いても
わかっていたようでわかっていなかったことばかりです。
包丁の構造
包丁の選び方
包丁の見方
包丁ごとの研ぎ方
砥石の使い方
砥石の面直しの頻度
それだけではありません。
鋼やステンレスなど包丁の素材、種類別で、
切られた食材はどう変わっていくのか?
このブログには書ききれないほどの濃厚で膨大な量の研ぎ情報。
まずは一旦、自分の頭を空っぽにして、
藤原さんのお話を一生懸命理解しようとして
でも結局、実践しなければ体では理解出来ない包丁研ぎの世界。
朝から丸一日、マンツーマンで包丁研ぎ講習をお願いしていたのですが
あっという間に時間が過ぎていきます。
ただ時間が過ぎていくだけではなくて
理解と納得が繰り返される時間は、
包丁研ぎに対して、開眼させられる時間。
お昼ご飯も、夜ご飯も一緒に過ごして、
その間も藤原さんから出てくる言葉、お話、
全てが宝物でした。
本物、本質
という言葉がぴったりの藤原さんの包丁に対しての向き合い方。
包丁が人の手に渡ってから、どのように包丁が使われていくのか?
をとても気にかけていました。
例えば、
日本の包丁は、日本人だけでなく、世界中の料理人にとって憧れの刃物なわけです。
来日した外国人シェフの多くが、東京の合羽橋(かっぱばし)で包丁を買って帰ることが多いわけですが
彼らの手に渡った後を考えると心配になるとおっしゃっていました。
持ち帰られた包丁は研がれているだろうか、使い続けられているだろうか。
使えば必ず切れ味は落ちるし。
包丁は研ぐから使い続けられる。
しかし、例のように研ぎの技術は独学が多く
特に和包丁は、きっと残念なことになってしまっているのではないか?
まだまだ研ぎについては十分に伝えられているとは言いがたい。と藤原さん。
その現状を覆すべく、【日本包丁研ぎ協会】を設立。
藤原さんは店頭に並ぶ包丁を未完製品と考えていました。
包丁は包丁だけでは機能しない。
使い手さんがいて、まな板があって、食材が用意されて役割を果たすもの。
つまり、包丁のあるべき姿は料理の現場ごとに変わるということ。
研ぎを重ねて、包丁は完成されるということです。
研ぎの正解は現場にしかない。
使い手本人が自分で判断できるようになることが大事だということです。
包丁と砥石の構造理解して、研ぐしかないです!
包丁研ぎ講習終了後も
焼肉屋さんで食事しながら、色々とお話を聞かせてくださいました。
大学卒業後、刃物の老舗、日本橋の『木屋』に入り、
百貨店の刃物売り場に配属されて、接客の傍ら、
包丁研ぎのサービスを続ける中で湧いてきたのが、「切れ味とは何か?」という疑問だったそうです。
顧客から『あなたの研ぎ、前に研いでくれた人よりいいわ』と言われたことがあって、
同じ包丁でも研ぎによって切れ味は変わることにここで気が付いた藤原さん。
売り物は包丁なのか、切れ味なのか?
包丁が商品かもしれないが、切れ味が発揮されなければ意味はない。
とすれば、売り物は切れ味ではないか?
木屋に勤めた4年間に研いだ包丁の数は約1万本!!!
その後、三重の親元さんのところへ戻った藤原さんは
包丁研ぎの講習を、一般の主婦から三ツ星料理人まで幅広く行なったそうです。
刃物に関する金属的なデータや機械的なデータは山ほどあっても、
料理の現場に即した切れ味の研究はあまりなされていない。
2014年、包丁による食味の違いを検査によって明らかにしたのを機に
研ぎの効果を料理に落とし込んで確認できるように、
【切れ味研究所】を店の一角に設けて、飲食店の厨房並みの調理機器や調理器具、
あらゆる包丁を備えて、切れ味が料理の味にどう影響するかを探求し始めたそうです。
こんなことをしている包丁屋さんは見たことがありません。
切れ味の良い包丁で切ると、リンゴの切り口が茶色くならない。
細胞が壊されないから、酸化しにくい。
雑味が出ない。
加熱した時、アクが出ないし、煮崩れない。
食材の損傷がないので、調理後の劣化も遅い。
肉であれば、表面の凸凹が少ないから、焼いた時に不必要な焦げが付かず、脂も流れ出ず、硬くなりにくい。
つまり、素材が本来持っている味が保持される。
その結果、使用する調味料も少なくて済む。
栄養の損傷も少ない。
切れる包丁を使えば、より良い熟成がもたらされる。
それは食材の寿命を延ばすことにつながり、無駄を減らすことにもつながる。
すぐに美味しく食べるのか、切ってからしばらく保存するのか
それによって、鋼が良いかステンレスが良いか?
トマトは、どの包丁で切って、いつ食べると美味しいのか?
研ぎの活用領域をここまで研究している包丁屋さんは見たことがありません!
というか、そういう料理人でさえも見たことがありません!
そんな藤原さんが
YouTubeチャンネルを開設されました。
【 日本包丁研ぎ協会『ここまで研いで委員会』 】
どれもオススメの内容ばかりです。
ご興味のある方はチャンネル登録して損は無いと思います。
そして、勉強になった際には、是非、高評価ボタンを!^^
藤原さんのご活躍が、包丁を救い、料理をする人を救い、
食材が真っ当に扱われ、世界が良い方向に平和になることを願って。
【月山義高刃物店】
住所:三重県松阪市久保町1843-3
ホームページ:http://www.tsukiyama.jp/
コロナウイルスで自宅にいる間は
包丁研ぎばかりしていました。
奥深さ、面白さ、難しさ、確認、理解、間違い、学び、全集中、呼吸、刃(やいば)。。。
切れ味の凄さを子供達にも体感してほしくて
いらなくなった紙(この時はちょうどテスト用紙でした。。)をスパスパしてもらいました。
その包丁の切れ味動画がこちらです。
これからも包丁に対して
藤原イズムを忘れずに、あせらず丁寧に向き合っていきたいと思います。
藤原さん、本当にありがとうございました。
やりたいって言った時が一番の教育チャンス。