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「幻の寿司職人」はなぜ「すし作家」になったのか

[すし・sushiメディア岡田イズム]

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imperfect × FRaU SDGs
【Do well by doing good.】 記事より 

(前編)https://dowellbydoinggood.jp/contents/voice/261/

(後編)https://dowellbydoinggood.jp/contents/voice/267/


【「幻の寿司職人」はなぜ「すし作家」になったのか】


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2022年度青少年読書感想文全国コンクール小学校低学年の部の
課題図書に選ばれた写真絵本
「おすしやさんにいらっしゃい! 生きものが食べものになるまで」(岩崎書店)。
企画や文を担当しているのは、
紹介制の寿司店「酢飯屋」の店主として有名な岡田大介さん(43歳)です。
現在は、自ら釣りに出て魚が釣れたときのみ知人に寿司を握る
「幻の寿司職人」が、絵本を通じて伝えたかったものを伺います(前編)。

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〈キッカケは「寿司は生きものの集合体」と気づいたこと〉

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学校の先生たちが子どもに読ませたい本を選ぶ「日販図書館選書センター小学校の部」でも、
ランキング1位に輝くなど、非常に評価の高い岡田大介さんの著書。
絵本をつくろうと思ったキッカケは、自らが握る寿司だったという。

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「ある日、寿司を握っていてふと、『寿司って、ぜんぶ生きものでできているなあ』と気づいたんです。魚や米はもちろん、酢や醤油などの調味料も、もとをたどれば生きものだと。
命がないものといえば、塩と水くらいなんですよね。
『実は自分は、こんなすごいもの、すなわち命の塊をお客さまに出していたんだ』と衝撃を受けました」

私たちは日々、命をいただいて生きている。
そんな当たり前のことを、子どもたちに伝えたい、と思ったという。

「私は釣りが大好きで、数年前からはスキューバダイビングもするようになりました。
釣りをしているときは、『魚を釣りたい。そして食べたい!』という欲でいっぱいなんですが、
スキューバは違います。
魚やサンゴに触っちゃいけない状態で、
たとえば魚の家族やカップルがいい感じに過ごしているようすを眺めるんですよ。
かつて私にとっての魚は、まな板の上の『食材』でしたが、
ダイビングをするようになって『生きもの』に変わったんです」

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「ダイビングをやるようになって、魚にもそれぞれの生活があって、一生懸命生きていることを再認識しました」。

命を感じながら寿司を握る。そんな日々を送るうちに、
「寿司職人だからこそ、伝えられることがあるんじゃないか」という思いを強くしていった。

「ただ『命の大切さを伝えたい』と言ったって、誰も耳を傾けてくれないんですが(笑)、
お寿司から入って『このお寿司になっている魚は、もともとはこんな形だったんだよ』と見せると、
子どもたちは『え〜、そうなの!?」と身を乗り出してきます。

よく『最近の子どもは、魚は切り身で泳いでいると思っている』といわれますが、
それは都市伝説のようなもの。
みんなテレビや図鑑などで見たり、水族館に行ったりして、ちゃんと魚のことは知っています。

ただ、魚を触ったことがある子どもはあまり多くない。
だから最初は『気持ち悪い』『くさい』などと腰が引けているんですが、
毒を持ったヒレなど危険な箇所を示して『ここ以外は大丈夫』と教えると、
みんなこぞって魚に触りはじめます。やっぱり実際に触ってみると、さらに興味がわくようですね」

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ワークショップのようす。岡田さん自身、小学生の2児の父でもある。(撮影:遠藤 宏)

岡田さんが子どもたちのみならず、大人たちにも伝えたいことは、魚たちが住む海のことだ。

「地球の7割が海ということは、皆さんご存知だと思います。ただ、あらためて考えると、
7割って数字はすごくないですか。いうなれば、私たちはほとんど海の中に住んでいるようなもの。
ですから、海とともに生活している人だけでなく、内陸や山に住んでいる人も、
海のことをもっともっと考える必要があると思います。
その切り口は、たとえば環境でも生きものでも、『おいしいものがたくさんとれる』でもいいんですよね」

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「おすしやさんにいらっしゃい! 生きものが食べものになるまで」(岩崎書店)では、
魚が寿司になるまでの過程を子どもたちと一緒に見ていく。
子どもはもちろん、大人にとっても「目からウロコ」の内容だ。


岡田さんのもとには、この絵本をきっかけに、
「あらためて魚と向き合ってみた」という大人からの声が多く寄せられている。

「低学年向けの絵本なので、大人が一緒に見る機会が多いようです。
読んだ後に『私も知らないことがいっぱいあった』と興味をもって、
実際に魚やイカを買ってくる人がたくさんいる。イカなんかは、
子どもがグチャグチャに触っても、最後は炒めちゃえばおいしく食べられるじゃないですか。
私は『食遊び』といっているんですが、食材で遊ぶのって、子どもも大人もすごく楽しいんですよ。
楽しく遊んだ後は、料理をしておいしく食べる。
たとえまずくなってしまっても、それも勉強だと思うんです」

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〈日本の海に、さまざまな異変が起きている〉
寿司職人として、また趣味の釣りやスキューバダイビングを通じて、
岡田さんは日本中の漁師たちと交流がある。

「どこに行っても『魚が増えた』という漁師さんはいません。
ただ、それまでとれなかった魚がとれるというんです。
近年、ブリが大量にとれるようになったという函館では、
"ブリたれカツ"など新しい名産品が生まれています。

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ただ、これは函館のように大きな漁港だからできること。
大部分の漁港では、これまでとは違う魚がとれるようになっても、
それに対応する漁具や処理する人がいないことに頭を悩ませています」

海とともに暮らしてきた漁師たちの声によると、日本近海の魚たちは、確実に北上しているという。

「原因はいろいろいわれていますが、専門家でもハッキリとは特定できていないんですよね。
南の海に住んでいた草食魚たちが北上することで、
ワカメやヒジキ、昆布などの海藻はどんどん減っています。
すると、海藻を食べるウニにも影響が出る。
苦労してとったウニを開けてみたら、ほとんどが空っぽだった、という現象があちこちで起きています。

さらに最近では、世界的に『うまみ』が注目されて、
アジアやヨーロッパのシェフたちがこぞって昆布を使うようになりました。
私の個人的な予想なんですが、10年後には昆布は超高級食材になって、
手に入りにくい食材になると思います。
そうなると、和食そのものが危機に陥りかねませんよね」


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【「すし作家」が提言!「食材のストーリーをたどれば人生は豊かになる」】

2022年度小学校低学年の部の課題図書に選ばれた
「おすしやさんにいらっしゃい! 生きものが食べものになるまで」(岩崎書店)。
企画や文を担当しているのは、紹介制の寿司店「酢飯屋」の店主、岡田大介さんです。
現在は、自ら釣りに出て魚が釣れたときのみ開店する「幻の寿司職人」岡田さんに、
食と海について感じていることや、私たちにできることを伺いました(後編)。

〈食材がたどってきた道に思いを馳せてみる〉
「学校の先生が子どもに見せたい本」小学校の部でランキング1位となり、
「第69回産経児童出版文化賞・JR賞」
「第27回日本絵本賞」など、賞を総ナメにしている
岡田大介さんの「おすしやさんにいらっしゃい! 生きものが食べものになるまで」。
この写真絵本は、魚が寿司になるまでの過程をカラフルなビジュアルで楽しく学べるため、
多くの子どもたちが夢中になっている。

「子どももお寿司は大好きですから、ワークショップでこの絵本の読み聞かせなどをすると、
『次、どうなるんだろう』と興味津々で絵本のページをめくってくれていますね。
この本では、魚の内臓もうんちも全部見せています。
『生きものの多くはみんな食べものを食べて消化して、うんちを出して生きている。
魚だってこうなっているんだよ』と教えると、子どもはみんな目をキラキラさせて聞いています。
本は、それをわかってもらったうえで『じゃあ、おすしにして食べようか』となる構成にしました」

「命があるものが食べものになるまで」の過程を意識するシーンが少なくなっている昨今。
だからこそ、食に意識を向けるべきだと岡田さん。

「魚だけでなく、野菜や肉も同じ。
たとえば、ホタルイカのパスタを食べるときに、それぞれのたどってきた道を考えてみるんです。
ホタルイカは海から、ニンニクや鷹の爪は畑からやってくる。
パスタは小麦が原料ですが、『そこからどういう過程を経てパスタになったんだろう』
などと想像してみるんです」

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「魚を釣ったり野菜を育てたりしてみると、食材の背後にいる人々の苦労やすごさがよくわかります」

食材それぞれのストーリーを考え、わからないことは調べる。
そうしているうちに、食事はもっともっと楽しく、豊かになる。

「梅干しは知っていても、梅の花とのつながりを知らない子どもは多いでしょう。
梅を調べれば、梅の木と葉っぱ、実のこともわかる。
もちろん、毎回の食事でやる必要はないんです。
すごく気に入ったものとか、おいしいと思った料理だけでいい。
そうすると、もっと食材について知りたくなるはずですよ。
たとえば一杯の牛丼を食べるときも同じです。
このお米の品種は何で、どんな特徴があるのだろう? 牛肉はどこからきたものか?
牛の種類は何だろう? と、かなり奥深い。
かくいう私も、こんなふうに考えるようになったのは、ここ数年のことです。
以前から寿司職人として魚や米、醤油などの生産者のもとを訪ね、
食材には自分なりに向き合ってきたつもりでしたが、
しょせん味や調理法どまり。それ以前の『生きもの』としての見方はできていませんでした」

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「生きものから食材になるまでの過程を大切にしたい」と岡田さん。
美しくさばかれた魚の腹の中にも、内臓や排泄物があったことを知ってもらいたいという。

食材のストーリーを知り、その裏にある生産者たちの苦労を知ることこそ、
豊かな食育につながっていく。

「たとえばマグロ。漁に行ってみるとわかるんですが、
マグロを一匹釣るのってものすごく難しくて大変なんですよ。
ベテランの漁師が船を出したって、手ぶらで港に帰ってくることもある。
どんな食材にも、時間と大変な手間がかかっているんです。
スイカだってそう。僕らがタネを植えてみたところで、コブシ大の実をならせるのが精一杯でしょう。

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八百屋さんに並んでいるような、あんなに大きくておいしいスイカが作れる農家さんは、
とても偉大なのです。そこを理解できていれば、相応の価格で買おうと思うようになりますよね」

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〈寿司と海の導線をつなぐことで、次のアクションへ〉

「そうやって食材のストーリーを知ると、簡単に生ゴミとして捨てられなくなる」と岡田さん。

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「スイカは中の赤い部分はもちろん、白いところもおいしいんです。
食べ終わったら硬い緑色の外皮だけを薄く削いで白い部分は残し、
塩漬けや醤油漬け、糠漬けにして食べます。

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スイカは大きいから、『この夏は、もうキュウリを買わなくてもいいんじゃないか』と思うくらい、
漬物がたくさんできます。
スイカはキュウリと同じ瓜科の植物ですから、漬物にしてもキュウリに匹敵するくらいにおいしいし、
夏に必要な栄養も満点。フードロスも防げて、一石二鳥です」

これまで、皮や切れ端を捨てずに使うことは、ともすれば「貧乏くさい」とされてきた。
だが、お金のあるなしに関わらず、最後までていねいに食べるという気持ちこそが、
その人の「豊かさ」なのだと岡田さんはいう。

「ていねいに食べる姿勢が身につくと、
人にも自分自身にも、ていねいに接することができるようになります。
僕もジャンクフードを食べることがありますが、
一方で『これを食べると、きっと体が喜ぶな』と思う食材がある。
食べものに向き合うことは、自分に向き合うことでもあるんですよ」

今後も寿司や魚、食の大切さを伝えることで、
海の環境を守るムーブメントにつなげていきたいと岡田さん。

「海を大事にする気持ちをみんながもてば、きっと変わるはず。
そのために、これからも寿司から海への導線をつないでいきたいと思っています」