向いている仕事に就いた人たち。 笑顔は人を笑顔にする。
[岡田イズム]
『いらっしゃいませー!駅弁はいかがですかー?』
驚くほど元気いっぱいの大きな声で注目を集めているおばちゃんがいる。
早朝、足早に歩くビジネスマンたちや、観光客まで、
皆がとりあえず振り向いてしまうほどの気持ちの良い呼び込み声。
まんまと僕も店内に吸い込まれていった。
一日中あんな大きな声を出していたら、色々しんどいだろうな。
自分的には長く続けれらないジャンルの仕事だなー。すごいなー。
そんなこと思いながら、ずらりと並ぶ駅弁を吟味していると
そのおばちゃんが、アルバイトの男の子に向けて何やら小声で話しかけている。
(小声と言っても一般的には大きめの声だが。)
『この仕事、最高だよねー! 1日中こんな大きな声出しても怒られないし、ストレスも吹っ飛ぶわー!最高!』
そうなのか、この人にとっては、しんどい仕事ではなくて、最高の仕事なのか。
どの仕事がどんな人に向いているのか、こんなハマり方があるわけだから面白い。
それに似た出来事が、翌日にも起こった。
とある定食屋さんでのランチをしていた時のこと、
賑わう店内、僕の隣りのテーブルが一つ空き、次のお客様を受け入れる準備が整ったタイミングで
『いらっしゃいませー、お客様お二人さまでよろしいですか? こちらのテーブルにどうぞー!』
20代前半くらいの女性二人組が僕の隣りに座り、コートを脱ぎながら言った。
『あの店員さん凄くね?こんなに忙しいお店なのに、よくあんなにニコニコしてられるよね。』
たしかに、この40席以上もあろう店内でホールは2人。
出来上がった料理を運ぶことはもちろん、レジ打ちに注文とり、行列の整理に行ったと思ったら、
追加注文、そしてレジ打ち。
次から次へと大忙しな彼は終始、誰に対しても笑顔で接客をしている。
もしかしてそういう顔の人なのかな?とよく確認してみるも、
いや、しっかり笑顔で接客している。
彼女たちは前日ディズニーランドで高揚した思い出話を妙なテンションで語りつつ
時折、店員さんのパーフェクトな笑顔接客を、いたずらにいじりながら
ずっと左手で前髪を気にしている。
6,7分経った頃だろうか、
仲良しの彼女たちがお揃いで注文したチキン南蛮定食を両手に
彼がやってきた。
『お待ちどぉさまです! チキン南蛮定食でーす!お味噌汁、熱くなってますのでお気をつけください!』
僕は目の前で見た。やはり、完璧な笑顔だった。
そして、確実に彼はこの仕事を楽しんでいる。向いている。
お兄さんが立ち去るやいなや、
『まじ、信じらんないんだけどぉ。』
『なんであんなにニコニコできんの?』、彼女たちは続ける。
僕は玄米をしっかり噛むタイミングの長さに合わせて、顔を上げ
その様子を目だけでチラチラと見て笑いを堪えていたことに
1人の女の子は気づいていた。
『あの店員さんの笑顔、まじ凄くないですか?』
僕に話しかけてきた!
『え!あー、素晴らしいですよね!』
それきり、僕には一切の目もくれず、彼女たちはたっぷりのタルタルソースで
チキン南蛮定食に集中し始める。
『うっま、みそ汁。学食のみそ汁めっちゃ薄かったよねー!』
たわいもない。
と、1人の女の子が切り出した。
『笑顔ってさぁ、人を笑顔にするよね。ってことはさ、なるべく笑顔で生きていたほうがよくない?』
彼女は「笑顔」の真の凄さに気づいたのだ。
『え、私ももっと笑顔で接客しよー! 』
お、君もサービス業だったのか。
自分で言うのもなんですが、僕も比較的、笑顔多めのタイプの人間だ。
「笑顔」って、どんな時にうまれるのだろう?
僕はランチの間ずっと考えていた。
嬉しいとき、楽しいとき、美味しいとき、面白い時・・・・・・・。
誰かを笑顔にするためには、自分を笑顔にすればいい。
自分を笑顔にするために、どうすればいいのかは
自分が一番知っているはず。
だからとりあえず、笑おっ。
(※写真は、大分駅で出会ったアンパンマンの格好をした名前も知らないお兄さんとのツーショット。)