むらさきうに・ムラサキウニ・紫海胆・Heliocidaris crassispina
動物界 Animalia
棘皮動物門 Echinodermata
ウニ綱 Echinoidea
真ウニ亜綱 Euechinoidea
ホンウニ上目 Echinacea
ホンウニ目 Echinoida
ホンウニ亜目 Echinina
ナガウニ科 Echinometridae
ムラサキウニ属 Heliocidaris
ムラサキウニ Heliocidaris. crassispina
佐賀県唐津市の袈裟丸(けさまる)さん
ご自身で海に潜り、アカウニ、バフンウニ、ムラサキウニを獲ってきて、
カジメがたっぷり入った生け簀でウニを育成して出荷しています。
ウニは、海水にいる間は、トゲの間から管足(かんそく)と呼ばれる足のようなものが
たくさん生えています。
その先は、吸盤のようにくっつき、これを使って歩きます。
管足などの写真は、こちらのキタムラサキウニのブログ内でご覧いただけます。
体は5方向に放射状の構造で、
口は地面に接している下側の真ん中にあります。
ウニは、どちらが正面というのはハッキリわかりませんが
進む方向は決まっていて、トゲの長さにも前後で違いがあります。
ということは、顔があるのかもしれません。
日本沿岸に広く分布していて、この黄色い生殖腺を食用とします。
産卵期は5月から8月。
低緯度地域では早くから始まり、期間が長い傾向にあります。
受精卵から生まれたばかりのウニは、
三角形をしていてスケルトンで『プリズム幼生』と呼ばれます。
袋状の原腸が伸びて口がつくられ、骨格のもととなる骨片(こっぺん)が
発達し始めます。この時の体長は約0.15mmほどです。
およそ24時間ほどで
さらに尖った三角形になり、二腕『プルテウス幼生』になります。
成長とともに腕と呼ばれる構造が伸びます。
海中を漂いながら、植物プランクトンを食べて成長します。
この時の体長は約0.2〜0.8mmほどです。
だんだん腕が増えて
約1ヶ月で四腕、六腕、八腕、プルテウスを経て稚ウニとなります。
全体が黒っぽい紫色のトゲに覆われたら成体です。
大人になると、五角形になります。
骨格と中身は5方向に広がっています。
体の下の真ん中に口、上の真ん中に肛門があります。
裸殻は灰色。
雌雄異体ですが、外見から判別することはできないです。
寿命は9年程度です。
岩などにくっついて主に海草や海藻を食べて生活しています。
実際は雑食性で、ヒトデや死んだ魚のほか、
コケムシやサンゴなど、近くに海藻が無い時はわりと何でも食べますが、
あまり成長がよくないので、豊富な海藻を求めてたくさんある足で海底を移動します。
海藻を非常によく食べるので、人間が養殖している昆布などを食べつくす食害を起こすことがあります。
飢餓に強く、海草が死滅する『磯焼け(いそやけ)』と呼ばれる状態になっても
長期間生き続けることができます。
天敵はラッコです。
ムラサキウニは鋭いとげがあり、食べるのが難しいですが、
ラッコは手で石に打ちつけてムラサキウニを割ることができます。
体の構造がみるみる変化するウニは、
扱いやすく失敗しにくいため、学校での発生実験によく用いられます。
発生学のモデル生物として生殖細胞が利用されています。
実験ではおもに卵の細胞分裂を観察しますが、
その後の変態していく様子もとても興味深いものです。
口ができていく過程や、
生まれたての丸い形から三角形、そしてトゲトゲになっていく変化が劇的です。
健全なムラサキウニは非常に発達した生殖腺を持ち、
食用になるので水産資源として扱われますが、『磯焼け』の海底にいるムラサキウニは
飢餓状態であり、成長不良のため中身が少なく食用にほぼなりません。
そのため、単に海藻を食害して磯焼けを引き起こすだけの害獣として、駆除の対象になっています。
海底の海藻が死滅する『磯焼け』の状態になると、
それまで生えていた褐藻類に代わってサンゴモ類が優占し、
同時にムラサキウニが大発生した状態になります。
そのため、ムラサキウニが海藻を食べつくしてしまったことが、
磯焼けの原因のひとつとされていますが、
磯焼けは海底が高温貧栄養状態に置かれたことによって
褐藻類を主とする海藻の成長が阻害され、
捕食者と被食者のバランスが崩れた結果、
褐藻類がムラサキウニに食べつくされてしまったことによるもので、
ムラサキウニが全部悪いわけではありません。
しかし、ムラサキウニが磯焼けの海底にせっかく生えてきた海草を
生えるそばから食べてしまうため、
ムラサキウニの摂食圧によって『磯焼け』が持続する結果になっているのは事実です。
健全な環境においては、
サンゴモ類は褐藻類に覆い隠されながら生活し、
また褐藻類はムラサキウニの生育を阻害するポリフェノールを分泌するため
ムラサキウニもあまり増えず、結果として生態系のバランスが取れていますが、
『磯焼け』の状態では褐藻類が衰退し、サンゴモ類のみが優占する状態になります。
サンゴモ類はムラサキウニの成長を促すジブロモメタンを分泌するため、
ひとたび『磯焼け』が起こった場合、ムラサキウニが大発生することになります。
また、サンゴモ類はムラサキウニの摂食を阻害する物質も出すため、
サンゴモ類はあまりムラサキウニに食べられず、
逆に邪魔な褐藻類の芽生えをムラサキウニが食べてくれるため、
サンゴモ類が優占する状態が持続することになります。
『磯焼け』は、サンゴモ類以外は何も生えない『海の砂漠』と呼ばれる状態ですが、
サンゴモ類にとってはむしろ天国です。
『磯焼け』は、ムラサキウニなどの捕食者を排除し、
ウニが入ってこないように網で囲いをし、
海藻の苗を植える藻場の造成を行うことによって回復できますが、
囲いを行った部分以外は『磯焼け』のままであり、
またこれを行うと従来は水産資源となっていたムラサキウニが取れなくなるため、
『磯焼け』以前の状態に完全に戻るわけではありません。
一方で、海底の環境が回復すると、
一面のサンゴモの砂漠でも速やかに様々な生物が共存する海中林に戻ります。
『磯焼け』のメカニズム自体がまだはっきりと解明されたわけではありませんが、
『磯焼け』を食い止めて、
海藻とムラサキウニが共存する豊かな環境を回復するための取り組みが各地で行われています。
なお、『磯焼け』の原因としては、
海流の変化や地球温暖化などの自然的要因、
ダムの放水などの人為的要因のほかに、
ウニを食べるラッコの減少があり、
ラッコが減少したためにムラサキウニが増えすぎて
『磯焼け』が発生した事例があります。
ラッコは普段は水産資源であるムラサキウニを食べる害獣として扱われますが、
ラッコがウニを食べることによって
海藻やウニなどの豊かな水産資源を生み出す環境が逆に守られているなど、
自然は複雑なバランスの上で成り立っています。
日本で食べられている主要なウニは
キタムラサキウニ、ムラサキウニ、バフンウニ、エゾバフンウニ、アカウニ、シラヒゲウニで
生殖腺が食用となります。
生殖腺がもっとも発達する産卵期の6月から8月にかけてが旬です。
雄雌の違いは、よく見ると卵巣は色が濃く、精巣は色が薄いという区別がありまする。
また卵巣よりも精巣の方が濃厚で美味しいという人もいますが、
食材として流通する場合、基本的に雄雌は区別されません。
生殖腺の色から、
バフンウニとエゾバフンウニが赤雲丹(あかウニ)
と呼ばれるのに対して、
ムラサキウニとキタムラサキウニは白雲丹(しろウニ)と呼ばれることもあります。
ムラサキウニとキタムラサキウニはよく見ると外見が少し違う以外に、
主な生息地や旬などが違います。
またムラサキウニよりもキタムラサキウニの方が濃厚で美味しいという人もいますが、
「白ウニ」として流通する場合、基本的に両者は区別されません。
ウニは採取すると数日で生殖腺が崩れてしまうため、
型くずれを防ぐためにミョウバン洗浄された「板ウニ」として全国に流通していますが、
ミョウバンは特有の苦みや臭みがあるため、これを嫌う人も多いです。
生殖腺を採取して塩水につけただけの「塩水ウニ」、
殻に付いたままの「生ウニ」、殻ごと焼いた「焼きウニ」などの料理も賞味されています。
神奈川県で養殖研究されているウニは、三浦半島名産のキャベツをエサにして育ち、
『キャベツウニ』と呼ばれています。
「磯焼け」に苦しんでいる三浦半島のムラサキウニは、
天然ものは食用となる生殖巣があまり育たないため食用にはならないですが、
好物のキャベツを与えて養殖するとキタムラサキウニに近い味となることが確認されています。
長崎県壱岐市
『節句磯(せっくいそ)』にて
ムラサキウニ漁ををしてきた時の様子はこちらからどうぞ。