キビナゴ漁
2019年10月 高知県宿毛市(すくもし)。
今回は、キビナゴの巻き網漁に連れて行っていただきました。
出漁した20時にはもう、あたりは真っ暗です。
無数の星が輝いて、
空と海がどっちがどっちだかわからないような
幻想的な海の上。
高知県宿毛市は、高知県の西側にあるこのあたりです。
キビナゴの活性が上がる時間まで、漁師さんたちは
膝立ちがギリギリできるかできないかほどの天井の低い船内で
一眠りして体力を温存しておきます。
こういうところで寝る感じもまた、良き経験でもあり、
漁師さんのタフさを体感できます。
船長さんから、『ブーーーー。』という目覚まし音が鳴らされました。
いざ巻き網漁の開始です。
エンジンルームの騒音と排気ガスのにおい。
漁船も、漁師さんらとともに一員となって心臓を活発に動かしています。
3隻の船で行われるキビナゴの巻き網漁。
それぞれの船が役割ごとに動き、
網を仕掛けていきます。
さっきまで星が綺麗だったのに、
いつの間にか大雨。
サッとカッパを着重ねて、かさばり動きづらいはずの体を
なんてことなく、自在に動かして普通に仕事を開始する漁師さんたち。
仲間の船にライトでサインを送ります。
魚群探知機(魚探-ぎょたん-)でキビナゴの群れをとらえました。
船があっちに行ったり、こっちに行ったり。
いよいよ巻き上げが始まります。
漁師さんたちも予想していた通り、漁獲は極少。。
先日、海洋環境の有識者の方々のお話会であったとおり、
地球全体でみると魚が増えているので温暖化が一番の問題ではなく、
日本の魚だけ減っている理由は、乱獲にあるという意見。
こういう現場を見ると、巻き網も例外ではなく。
しかし、多くの漁師さんたちの生活の支えでもあるわけで
例えばキビナゴを一匹一匹釣るわけにもいかず。
特にこの地域は、若い漁師さんと年配の漁師さんが入り混じっているので
極端な改革よりは少しずつ、環境と漁業のバランスをとる意識に移っていくような気がします。
こちらは網に入ったソウダガツオ。
しばらく身を小刻みに震わせて、
ちょっと強めの携帯電話のバイブモードがずっと鳴り続けているような感じの振動です。
冷えた自分の手で触れると、運動し続けているソウダガツオの体温のほうが温かく、
自分よりも温かい魚に触れたのは初めてだったので
いつも以上に命を感じてしまいました。
こちらが、この巻き網漁の主役、キビナゴです。
本当に綺麗で美味しそう。
そう、思うのは人間だけでなく、
先ほどのソウダガツオに始まり、スマ、カンパチ、アジ、イカ、カマスなど
様々な魚たちの口の中や胃袋の中にキビナゴがたっぷり入っていました。
船の灯りに透かしてみても綺麗です。
生きているキビナゴを生かじりしてみました。
あーー。
俺の体の一部になっていく。
なんと美味しいことでしょう。
しっかりと味が濃く、味付けもいらない。
こんな抜群の状態のものを他の魚や鳥たちは食べているのか!!!
熟成の美味しさと対局にある鮮度抜群の美味しさ。
野生動物の多くが、死んだ生き物よりも、生きている生き物を好んで食べるように
水生生物の多くが、死んだ生き物よりも、生きている生き物を好んで食べるように
人間も生きている生き物ものを食べると、本能的に力みなぎるように思います。
この小さなたった一匹のキビナゴから、
それだけのパワーが溢れていました。
若手漁師のけんた君が船上でソウダガツオをワイルドにさばいていきます。
揺れる船でも手際よく、まだ体温の温かいこのソウダガツオの刺身がおやつなのですから
漁師さんみなさま、いつもパワフル全開な理由に納得です。
カツオ調理したことがある方ならお分かりかと思いますが、
素手でカツオの皮を、身割れすることなく綺麗に剥がせるって凄いですよね!
獲れたてなので当たり前ではございますが、鮮度の良さが見てとれます。
タチウオも同じく。
1回目の漁が終わり、ここで一旦おやつ休憩です。
冷たい雨に打たれながらの、ハードな船上で食べる、蒸したさつまいものうまさ。
今も昔も、漁師さんは尊敬してやみません。
さあ、2回目の漁がスタートです。
2回目の水深はさっきよりもグンと深いです。
ん??
なんか様子がおかしいぞ。。。
船全体に緊迫した空気が。
どうやら網の巻き込みをするネットウインチでミスがあったようで
2回目の漁は何も獲ることができませんでした。
こんなことはいつも起きる事故ではなく、
極めてまれなことだったようですが、
こういったシーンにも立ち会えたことで、
さらに漁師さんの仕事の凄さを感じることができました。
木でできた、味のある操舵室。
多くの漁師さんの命を安全に守るためのステアリング。
気がつけば朝。
帰港に向かう船の中では、
ベテラン漁師さんの武勇伝を聞きながら、
今こうして、平和に生きれていること自体に改めて感謝しきりなのでした。
ちなみに、レンコンのように見えるこれは、仕掛けの網などが沈まないよう
にロープに通してある浮子(ふし)です。
港に着いたら、急いで水揚げ開始です。
たっぷと入った氷を先に取り除いていきます。
大きな網いっぱいに魚をすくって
持ち上げて、水を切り
陸にある選別台に移します。
ズササササーっ。
色々な魚が水揚げされました。
漁師さん自らが、水揚げした魚を全て魚種ごとに、凄いスピードで細かく選別していきます。
こちらは、ギンガメアジ。
現地では『エバ』と呼ばれていました。
カスミアジ や ロウニンアジ や オニヒラアジなど含め
金属メッキしたように体表がピカピカ光ることから
これらを総称してメッキ類と言ったりします。
それぞれ間違われやすいですが、
釣り上げた直後に出る体側の横帯(縞模様)が5本(尾柄部を除く)薄っすらと見えるのと
幼魚のギンガメアジは、尾ビレが黄色く、さらに尾ビレの後縁が黒いこと、
胸ビレが黄色くないことと、
エラ蓋の上部に小さな黒斑があることから
ギンガメアジで間違いないと思います。
ギンガメアジもしっかりとキビナゴを咥えています。
マルアジもしっかりキビナゴを咥えています。
アカカマス
カマス科カマス属は分類学上では20種類ほどの種類がいる暖海性の魚です。
日本で般的には、アカカマスとヤマトカマスの2種類に分けられます。
アカカマスの方がやや黄色味を帯びていて、味も美味しいため
『本カマス』とも呼ばれています。
一方、ヤマトカマスは別名『ミズカマス』と呼ばれていて
アカカマスよりも水分が多く、干物にされることが多いです。
同じ仲間にオニカマスちいう種類がいますが、
こちらは体長が180cm程にもなり、
『バラクーダ』と呼ばれています。
写真
上がヤマトカマス
下がアカカマスです。
カマスという名前の由来は、
「叺(かます)」のように口が大きいことから付けられたようです。
叺というのは藁蓆(わらむしろ)を二つ折りにして作った、
穀物や肥料などを入れるために昔よく使われていた大きな袋です。
漢字では「魳」や、「梭子魚(サシギョ)」とも書かきます。
これは機織りで、たて糸の中をくぐらせる、
よこ糸を巻いた小さい舟形の梭(さ)に姿が似ているところから付けられました。
カマスは小魚などを捕食する魚食性の魚で、
非常に攻撃的です。
大型のバラクーダは人を襲う事もあります。
やや受け口の口の中には一度食らいついたら逃がさないようやや内向きに鋭い歯が並び、
下層から上層の魚めがけて一気に噛み付き捕食します。
アカカマスの口
釣りでもルアーに激しく喰らい付く魚として知られています。
釣ったカマスに針を付けてをそのままカマスの泳がせ釣りをすると、
ヒラマサやブリが飛びついてきます。
アカカマスは体長が40cm程になり、
味の良さもあってカマス類の中では、最も人気があり値段も高いです。
一般に市場でカマスと呼ばれているのはアカカマスを指すことが多いです。
アカカマスは尾鰭、第二背ビレと尻びれが黄色く、
この写真は全てアカカマス
腹ビレの位置が第一背ビレよりも少し前についています。
写真では見えませんが、
鰓耙(さいは)と呼ばれる弓状のエラの内側に出ているヒレが2本ついています。
ヤマトカマスは、第一背ビレと腹ビレがほぼ同じ位置に付いていて、
アカカマスと比べると鱗が小さく、体全体が青グロっぽく見えます。
こちらも写真では見えませんが、
鰓耙(さいは)と呼ばれる弓状のエラの内側に出ているヒレが1本しかないのも特徴です。
ヤマトカマスの口
船の上で僕の手よりも温かかったソウダガツオ。
マアジもしっかりとキビナゴを咥えています。
こちらが今回の主役、『キビナゴ』。
氷締めされているので生きてはいないものの
透明感と銀色の輝き方は新鮮そのものです。
マサバもキビナゴをがぶり。
キビナゴは、様々な魚たちに気に入られ、食べられていることがわかります。
ヤリイカの子供
アオリイカの子供
ムロアジ属のクサヤモロ
キンメモドキ
こちらは、釣りもののイトヨリダイ
カンパチ
水揚げが終わると、漁船を係留しにホームに戻ります。
その帰りの船では宴会が始まります。
今回は、僕がお刺身担当させていただきました。
そして、高知らしく、酢みかんをぶしゅーと搾って
ワイルドに喰らい付きます!
魚もイカも、手づかみでガツっととって、
そのままお醤油につけて、酢みかん(この時はスダチ)をぶしゅーして、口に放り込みます。
搾った後のスダチの皮もそのまま食べたり、焼酎に皮ごとぶち込んだり。
男を感じますー!
漁から帰ってきてからも、また釣りをするという漁師さんたち。
どんだけお魚好きなんですか!^^
でもそのお気持ちわかります。
僕もお魚大好きです。
きびなごのおから寿司は、
ここ、高知県宿毛市の郷土寿司です。