zakzak by 夕刊フジ「ぴいぷる」
寿司職人兼作家・岡田大介 和食で若者世代の胃袋...にぎりたい! 写真絵本「おすしやさんにいらっしゃい! 生きものが食べものになるまで」が話題
〝釣ってさばく〟で分かったこと
日本の海や魚の魅力を発信しようと、寿司職人と作家というユニークな二刀流で活動している。それが、完全紹介制の寿司屋「酢飯屋(すめしや)」(東京都文京区)の店主であるこの人だ。
「お寿司屋さんで触れる魚は食材としてなので、生き物としての魚を海で釣ってさばくようにしたら自分の心情はどう変化するだろう、というのが出発点でした」
自らを「寿司作家」と称す。活動は店舗のカウンターで腕を振るうだけにとどまらず、ブログを開設して魚の目や口の中など部位ごとに写真を掲載。幼稚園や小学校で魚をさばいて料理に仕上げるまでを子供たちに見せる会や、高校でのワークショップを行うなど、寿司職人の枠を超えた働きっぷりだ。
「以前は釣り好きの人からタイの話を振られても食材としてのタイしか説明できませんでした。悔しかった。釣りから始めることで、改めて魚屋さんや漁師さんのすごさを知る機会にもなりましたし、自分も自信を持ってお客さんに説明できるようになりました」
知識を深めたことで、「魚のストーリーを伝える」が信条となった。そんな思いから生まれたのが、子供たちに楽しく魚や寿司の世界を知ってもらいたいと手掛けた「おすしやさんにいらっしゃい! 生きものが食べものになるまで」(岩崎書店)という写真絵本。子供たちを店舗に招き、キンメダイやアナゴ、イカなど釣り上げた魚が、おいしい切り身へと変わっていく様子を解説付きで見せていく構成だ。
「食べておいしかった、というだけの本にはしたくなかったんです。絵本に登場する子供たちには、切り身ではなく、魚として並んでいる状態で見てもらいたかった。思っていた以上に楽しんでもらえたので良かったです」
絵本は昨年2月の発売から評価を集め、日販図書館選書センター小学校の部で2021年度年間選書ランキング1位に選出。「本当にうれしいです」と顔をほころばせる。
料理に目覚めたのは18歳のときだ。きっかけは母親の急死だった。父、妹と弟の日々の食事のため、家の台所に立った。
「それまで料理人になるなんて考えたこともなかったです。でも、日常的に家族に食べてもらうなら、イタリアンやフレンチよりも和食だろうと思い、食と向き合うようになりました」
進む道を寿司職人に定め、修業を始めた。
「アジを見てもアジだと分からないという状態からのスタートでした。その分、吸収力は良かったと思います。先輩から教えてもらうのではなく、『見て盗め』の世界ですから、時間はかかりましたけどね」
腕前を上げてカウンターに立つようになったとき、あることに気づいた。
「お客さんが緊張しながら食べていたんです。お金を払うのに緊張して食べるなんて不思議だなという感覚があって、何か楽しみながら食べることはできないかと興味が出てきたんです」
そこで、休みのときに個人で有料の寿司パーティーを主催した。最初は友人らの飲み会として喜ばれたが、次第に50人規模の花見など、立派な出張ケータリングのビジネスにまで発展。寿司を楽しみながら食べる人たちの笑顔が思い出深いという。
「ただそれで疲れすぎて、寝坊することもありました」
職人としての地位を確立した現在は、和食のバージョンアップを目指している。
「若者世代が和食を食べる機会を増やすようにしたいです。体に良くておいしいから世界に広がって、『和食がいいよね』と言われているわけですからね。そのためにも、昔の人が保存のためにしていた味付けではなく、現代人向けにレシピなどを再構築していきたいです」
とはいえ、個人経営の寿司屋の暖簾をくぐるとなると懐具合も気になり、ハードルは高い。結局、回転寿司に足が向くが...。
「私もよく行きますよ、回転ずしは。寿司を楽しむ場所としては最強ですからね。でもできれば、個人店にも何かのときに行ってほしい。僕としてはこれからも、お客さんに生産者さんや魚、寿司の魅力を伝えたいですね」
独自の美学を持つ和食文化の伝道師。着々と練られているであろう次作の構想も気になるところだ。
(ペン・磯西賢 カメラ・三尾郁恵)
【zakzak】 by 夕刊フジ「ぴいぷる」より
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